Novel
オート・カニバリズム【07】
錫也には癖があった。それはストレスを感じた時に唇の皮を剥くことだ。よくありがちな癖と思われているがそれは自傷行為に含まれ、錫也は日常のストレスを自傷行為でごまかしているということになる。
ある日、いつものように皮を剥いて口の中で咀嚼している時だった。その時いつもより強く歯を立ててしまい、唇から出血する程度に深く皮を剥いてしまっていた……その時錫也は思った。
美味しい……
皮の少し歯ごたえのある様、血液混じりの塩気……
「おい錫也、唇から血が出てる」
「ほんとだ!痛そう〜。そういえば最近錫也って唇荒れ気味だよね。リップ貸してあげようか?」
「他人にリップクリーム貸すとか意味わかんねー……」
「親切でいってるのに!!まったく!哉太はわかってない!!」
「あ、あぁそうだな……悪いな心配かけて、気をつけるよ」
気付かれないように、気をつける……
指先の皮を剥いて食べた。満足できない。
一度あの唇の皮を味わってから、忘れられない。あの味が……。
ふと自分の腕を見る。いやここはダメだ、気づかれてしまう。
自分の太ももを見た。……ここなら…。
よく研がれた包丁を構える。肉をスライスしていく。痛みは強い。しかし好奇心が優っていた。
「っはぁ……はぁ…。削げた……」
錫也の指先には、さっきまで自分の太ももにあった肉があった。止血もろくにせず、肉を口に運ぶ。
「んっ……」
唇の皮とは比べ物にならない弾力、塩気……噛んでも噛み切れない…永遠に続くような味わい……
途中、噛み切れずに飲み込んだ。
「…美味しい……」
ガーゼで圧迫をして、包帯でしっかりと固定する。
これは……くせになるな……
足に切る部分がなくなり、腕に手をかけた錫也は精神科に送り込まれた。
20.10.5
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