Novel
時に悪魔の様に【01*08】
ある夏の日。暑さのせいか具合が優れなかった羊は保健室へと向かっていた。ノックをし、ガラガラと気だるげにドアを開けるが、琥太郎の姿は見当たらず心の中で軽く舌打ちをする。
「もう……しんどいのに星月先生ってば…」
勝手に使うよ、と保健室の中には入り空いているベッドに横になろうとするが、ふと一つ窓際のカーテンの閉まっているベッドが気になった。この人も先生がいないから仕方なく寝てるのかな……と少し興味が湧き、そぅっとカーテンの隙間から中を覗く。
「え!」
するとそこには直獅が寝ており、「え、サボり?意外だな…」と率直に思う。すやすやと寝息を立てる直獅を、羊はじっと見つめた。実は直獅と秘密で付き合っている羊は、最近キスすらまともにできていないことを思い出す。でも寝てる相手に……なんて、少女漫画みたいかな……。そろそろと顔を近づけ、自分の前髪が直獅の前髪にかかる距離。あと少しで……
ガララッ
「!?」
まるで謀ったかのようなタイミングで保健室のドアが開き、誰かが中に入ってくる。ノックもなく、またやる気のない足音から察するにこの部屋の主が帰ってきたようだ。
ど、どうしよう……!!こんな所で二人きりのところなんて見られたら確実にバレちゃう……!!
教師と生徒という関係だからこそ誰にも打ち明けずにこっそりと愛し合っていた二人。それが発覚すれば問題となるのは目に見えていた。どうしよう、とぐるぐると脳細胞を巡らせるが答えは空回りするばかりで名案が浮かばない。こっそりとカーテンから外を覗くと、ベッドが一つ勝手に使われている事には気にも留めず、呑気に机でうたた寝を始める琥太郎が見えた。
それなら……少しくらい暴れても気づかれない。
羊は直獅に向き直り、指の曲げ伸ばしを始めた。
喧嘩で相手を“落とす”時に使う技。指を三本、直獅の首筋に当てる。頚動脈を狙い、グッと力をこめた…………。
琥太郎が寝ている隙にベッドのカーテンを開け、直獅の死体を窓の外に落とす。
自分は窓から一番離れたベッドのカーテンを閉め、そこに横になった。
「……ん、なんの音だ」
琥太郎が目覚めた声に合わせて羊はカーテンから顔をのぞかせる。
「何か重いものでも落ちた音でしたね」
20.10.5
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