[携帯モード] [URL送信]
Lv.2-6





「―――失踪事件?」

 俺は、不意にそんな素っ頓狂な声を上げた。
 周囲の喧騒の中で俺の声などはすぐにかき消されてしまったが、隣を歩いていた未来には確りと届いたようで、未来は「ああ」と頷いた。
 未来の痛んだ前髪が頷いた拍子にサングラスの上で光を浴びて綺羅と煌く。俺は眩しいな、と思いながら、あまり興味をそそる内容ではなかったので「ふーん」と素っ気無く返した。

「主に東や西の連中らしいけどな、第8の治安は比較的他の地域よりいいから珍しいって客が言ってた」

 未来は俺のそんな態度に苦笑しながら続ける。未来は仕事の都合でよく上―――富裕層である東西地区―――に出向くことがあるから、そういう上の情報をよく仕入れてくるのだ。まぁ、たいてい俺のような下層の人間には関係のない話だけれども。

「あー東とか西ならどうでもいいや」

 そして今回も、俺には関係ないと未来の話を打ち切る。というか、そもそもこの地域の頂点があの変態人でなしな時点で、治安がいいなどありえない話だ。主に被害者は俺、加害者は件の変態人でなしこと、第8地域代表者のヤマトという、犯人がわかっていても手出しの出来ない状況でどうにもならないが。
 その事実を改めて認めてしまい、俺はハァ、と溜め息を吐いた。そうすれば、隣の未来がフッと苦笑するのがわかって、俺はムッとする。ムッとするついでに無駄に長い足を蹴ってやろうと足を振りかざしたが、それもすぐにかわされてしまった。ますます腹が立つ。

「あんま苛々すんなよ」

 未来が肩を竦めて俺を見下ろした。その行動もなんだかむかつくな。畜生、俺に未来と同じだけの身長があればこんな思いしないですむのに。
 俺はそんな、今更どうにもならない思いを抱きながら両手に抱えていた食材入りの袋を抱えなおした。底が、少し冷たい。
 ちなみに、隣の未来は俺の持つそれよりも大分重い袋を二つ抱えているが、全くそれを思わせない涼しい顔だ。つまり、いつも通り男前な顔。なんかむかつくな。
 『重力制御(グラビティ)』でも使っているのか、と疑惑の目でじっと見つめていれば、俺の視線に気付いた未来はこともあろうか「そっちも持ってやるよ」と言い出した。それはなんだか俺の自尊心が許さないので、俺はぶんぶんと首を振って断固拒否する。俺だってこれくらい持てる…非力だけどな。

「あー…ここは相変わらずの人ごみで気持ち悪いな…」

 俺はかわりに小さく呻いた。そしてその言葉通り、周囲はガヤガヤと騒がしくて俺はうんざりする。

「まぁ、北地区最大のブラックマーケットだからな」

 未来が言った。
 ブラックマーケット―――闇市のことだ。ここは北地区という最下層であるにもかかわらず、大抵のものが揃っている。全ては金次第で、何でも手に入るというのが売りだ。
 ただし、そこは何処よりも平等で秩序が保たれている。汚い手を使って場を荒らせば、そいつは次の日の店頭に新鮮な肉で売られているだろう。想像もしたくないが、それがこのブラックマーケットでの現実だ。まぁ、俺には殆ど無縁の場所だけどな。悲しいが金がないから。だから、基本的に未来やミツハさんとしか行かない場所でもあるのだ。


[*down][up#]

6/167ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!