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Lv.2-5

「…失踪者は既に東地区で21名、西地区で9名となっています」

 俺が首を捻っていると千里が口を開いた。淡々と紡がれる千里の言葉に、俺は「それで?」と続きを促す。

「事件発覚当初は身代金を目的とした営利誘拐かと思われましたが、何れも金品を要求されておらず、犯人側からの接触もない状況です」

 俺は千里のその報告にますます首を傾げた。東や西の連中を誘拐して金品の要求もないのであれば、残る可能性は怨恨くらいだろう。上は下の連中から恨みを買うことが多いのも事実だった。
 しかし、人数が少々多いのは気がかりだ。
 俺はしかたない、とソファから立ち上がりヤマトの元に歩み寄る。
 ヤマトは俺を見ることもなく書類の束を俺の方に押し出した。勝手に探せということか。
 俺は積み重なったそれらを持ち上げて目的の書類を捜す。その中でうっかり昨日までに提出するはずの書類を発見してしまって、俺は見なければよかったと少し後悔した。とりあえずそれを先にヤマトの眼前にかざして処理を催促しておく。ヤマトが唸ったのが聞こえたが、あえて無視した。
 そうしてようやく底辺の方に埋もれていたその書類を発掘し、俺は片手にとってざっと目を通した。
 その書類には先程千里の口から述べられた被害状況や発生日時が詳細に纏めてあった。そして、ふと失踪者の名簿に視線を落として、そこにあった名前に俺は僅かに動揺する。

「…おいおい、草薙(くさなぎ)もか」

 俺が口にした『草薙』という名は、この第8地域の東地区に住居を置く上流階級中の上流階級、政治にも影響を及ぼす家柄の人間だった。
 そして、目の前の千里の同僚でもある。つまり、『監視者』の一員なのだ。

「こいつって、確か隊こそ任されてないけどそれなりの奴だったよな…」

 俺は記憶を掘り返してその男のこと思い出そうとした。そう、確か上流階級の草薙の生まれにも拘らず、陽気で騒がしい男だった気がする。
 それに千里が頷いた。

「はい、草薙は私も認める実力者です。それ故に意味もなく失踪するとは考え辛いかと」

 部下の失踪を淡々と述べる千里に、俺は僅かに眉を寄せる。俺は千里との、この機械的な会話がどうも苦手だった。基本的に主従という枠に囚われた関係は、俺には息苦しい。ヤマトは別だが、それ以外でその関係を押し付けるつもりは俺にはなかった。地域のナンバー2である『門番』としてどうなのかと問われれば、おそらく落第点なのだろうが、それが性分なのだから仕様がない。
 俺ははぁ、と溜め息を吐くと千里に向かってバサバサと書類を振って言い放つ。

「で? こんなことでわざわざ報告入れて来るなよ。そっちで処理しとけ」

 俺は言外に忙しいんだよ、と伝えるが、それにも千里は顔色一つ変えない。かわりに再び低い声が室内に響く。

「…本日、この事件の共通点が見つかりました。その共通点について、ヤマト様にお伝えしたほうが良いかと思いまして」

 俺はその千里の言葉にチラリと仕事を続けるヤマトを振り返った。当のヤマトは書類にペンを走らせる指は止めずに、「…なに?」と不機嫌丸出しの声を放った。ああ、機嫌がまずいことになっている。

「下らない内容だったら殺す、俺は早くこれ終わらせて彼方のところにいくんだから」

 そしてそう書類から顔を上げずにヤマトは続ける。千里は、ヤマトの殺意が乗って冷えた低い声にも顔色を変えず、口を開いた。

「失踪者の共通点は―――…」



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