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Lv.2-11

「…わかった」

 そして重い沈黙のあと、未来はそういって纏っていた殺気を鎮めた。男が「よかった」と零すのが聞こえてくる。俺も、そっと未来の背中から少し身体をずらした。
 そうすれば、男が上から下まで視界に収まる。
 小柄な体格に薄茶の髪、くっきりとした双眸は青く、きらりと光沢を帯びていた。そして白い肌を覆うようにきっちりとした黒のスーツを身に纏っている。正直、北地区に有るまじき格好だ。ここでは滅多に見られない上等品だと、俺でもすぐにわかった。だって、靴までピカピカだ。そんな奴はこの北地区にはいない。
 違和感たっぷりのその男は、愛くるしいと表現するのが一番しっくりする容貌を微笑で満たし、その姿をじろじろと観察していた俺のほうを見た。瞬間的に、視線が合う。青の双眸に射られて、俺は慌ててまた未来の背に隠れた。な、なんか俺ってこそこそと凄く恥ずかしい奴じゃないか。

「…あれ、彼方ちゃんはまだ警戒中? 大丈夫だよ、とって食ったりしないって」

 未来の背に隠れた俺に「ほら出ておいでー」と声をかける、その人を動物のように扱う男に、未来が舌打ちする。そして徐に口を開いた。

「…ミツハの関係者ってのは百歩譲って認めるが、名も名乗らねぇやつは信用できねぇ」

 未来の言葉に、男は今気付いたとばかりに「おっとこれは失礼」と謝罪して続ける。

「俺は鏡(かがみ)、以後お見知りおきを」

 彼方ちゃんもよろしくね、と顔を出さない俺に向かって男―――鏡は言う。
 この手のノリのやつは苦手だ。見た目は大分方向性が違うが、なんだかどこぞの変態を思い出すからな。そしてうっかり脳裏に思い出したくない男の顔が浮かんできて、俺は慌ててそれを振り払うべく頭を振った。危ない、意識が汚染されてしまうところだった。
 俺のそんな目に見えない脳内の攻防を他所に、未来が鏡に問いを投げかけた。

「…それで、何で俺たちの前に現れた」

 それは、俺も気になっていたことだ。未来の背中に隠れながら俺はうんうんと同意する。鏡とやらはミツハさんに用があるといっているのに、何故わざわざ俺たちに絡んできたのだろうか。俺はまたそっと未来の背中から顔を出して様子を伺う。
 未来の質問に、鏡がハハ、と困ったように笑った。

「それがさ、ちょっと旦那の機嫌を損ねたって言うか、ぶっちゃけ怒らせちゃってね、まだ用事を果たせていないんだ」

 いやはや恥ずかしいなー、と鏡は薄茶のふわふわしていそうなその頭を掻いて零す。未来が小さく息を吐いた。呆れているのかもしれない。

「で? その尻拭いに俺たちが借り出されんのか」

 ふざけんなよ、と未来が吐き捨てる。
 また鏡が困ったようにその愛くるしい顔を歪めた。なんだか見ている俺のほうが罪悪感を感じるのは何故だろう。それが容姿の威力なのか。どうせ俺はなんの庇護欲もそそらないそこら辺の石っころと同じ顔だからな、そんなことをしても蹴っ飛ばされるのが落ちだ。考えてて虚しい。

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あきゅろす。
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