Lv.2-21
ミツハさんは俺の問いに目を伏せる。黒く長い睫が白い瞼に映えた。
そして薄い唇が、また言葉を紡ぎだす。
「…あれはな―――俺のせいなんだ」
そう言って、ミツハさんは瞼を上げた。俺の視界に少ない光量の中でも黒々と煌く双眸が映りこむ。際立って麗しいその容貌に俺はヒュッと息を飲んだ。そのまま呼吸を忘れてその美貌に見入ってしまう。
それでもミツハさんの唇は音紡ぎを止めなかった。
「あいつは頭はいいのに馬鹿だから、俺に罪悪感なんてもん持ってんだ」
そして自嘲気味に口元を歪めると、「俺は気にしてねぇのに」と小さく呟くように言った。
俺は口を挟めない。二人の間にどんな複雑な思いがあるのかはわからないけれど、それはなんだか凄く切ない。そこに入れないことが、なんだか無性に悲しい。
具体的にどうしてミツハさんのせいになったのか、そしてそんな思いを抱えたまま未来はずっとミツハさんの傍にいたのか、俺にもそれがあてはまるのか―――?
俺はグルグルと思考と感情を乱した。
「…ま、彼方は気にすんな」
ミツハさんは俺の沈んだ感情を察してか、一際明るい声で俺にそういう。
俺はハッとしてミツハさんを見返した。
俺を気遣うその優しくて大人の双眸が今は痛い。俺にもその痛みをわけて欲しいのに。
「ほら、だからんな泣きそうな顔すんなよ、目元真っ赤になってる」
ミツハさんは俺を宥めるように背を撫で、俺の後頭部を固定してその唇を俺の腫れた眦に寄せた。ちゅうと吸われて、俺はずるずると鼻を啜る。まだ泣いていないけれど、泣きそうなのは確かだった。
「…大丈夫、未来もちゃんといつか話せるようになるさ」
だから今は聞かないでやってくれ、とミツハさんは俺をその胸の中に抱き寄せる。
温かいけれどもやはり硬いそこから、ドクンドクンと心音が聞こえた。それに酷く安堵する自分がいる。必死に涙を押し留めて俺はミツハさんに縋りついた。
「俺、俺…!」
俺は込み上げてくる熱いものを耐えるように顔を歪めて呟く。ハッと息を吐けば、力が抜けて視界が滲んでしまうから、俺は駄目だと唇を噛んで小さく首を振った。
「…ミツハさん、俺、未来のこと好きだよ」
そしてミツハさんも大好きだ、と鼻にかかった小さく掠れた声で零す。ズズッと鼻を啜る情けない音に俺はぎゅうと瞼を下ろした。
瞼の下で、また未来の顔が浮かんでくる―――俺を優しく見つめてくれるあの未来が。
それなのに俺は、未来のことも、ミツハさんのことも、全然知らない。一緒にいるのに、一緒に育ってきたのに、いつだって肝心の部分で俺は輪から外れてしまう。
言葉にならない俺の悲鳴のような叫びは、結局俺の胸の奥に落ちて沈む。悔しいのか悲しいのか、切ないのか苛立たしいのか、もう混沌としすぎてわからない。駄目だ、泣きそうだ。
「…俺も、彼方のこと愛してるよ。勿論、未来だってな」
そんな俺の耳に、ミツハさんの優しい声が鼓膜を打って届いた。
そして情けない姿を晒す俺を、ミツハさんはぎゅうと抱きしめる。抱きしめて、大丈夫だと俺に何度も囁いてくれた。
それは未来もよく俺にしてくれる行動で、もう俺は耐え切れずに眦を濡らした。俺はそのまま額をぐりぐりとミツハさんの胸に押し付ける。
ぐずぐずと鼻を鳴らせば、ミツハさんは文句も言わずに背中を擦り続けてくれた。
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