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Lv.2-22

「…ったく、彼方泣かすんじゃねぇって言っといたのにあの馬鹿は、…帰って来たら制裁だな」

 不意に、ミツハさんがぼそりとそんな物騒なことを呟いた。
 そして「なぁ彼方?」と俺に話を振られたので、俺は涙と鼻水で汚れた顔をおずおずとミツハさんの胸元からあげた。
 べっとりとミツハさんの寝巻きは汚れてしまっていたが、ミツハさんは嫌な顔一つせずに俺の眦を綺麗な指先で拭うと「彼方も殴っていいんだからな」と笑む。俺は吃驚して目を見開いた。

「当たり前だろ? 彼方はなんも悪くねぇんだから」

 ミツハさんはそういって今度は俺の鼻先にちゅっと吸い付いた。
 俺はそれにも驚くが、俺の言葉で未来は出て行ってしまったのだから、やっぱり俺のせいではないかと思う。

「で、も…、んっ」

 俺のそんな震えた声は、しかし途中で唇に吸い付いてきたミツハさんの唇に飲み込まれてしまう。今度は、触れるだけではない。
 ざらりとして滑った弾力のある舌先が歯列を簡単に割って、唾液で潤う口蓋を舐め上げてくる。ぞわぞわと背筋が粟立った。それでもミツハさんの熱い舌は俺のそれに絡んでちゅうと吸って来る。
 俺は目をぎゅうと閉じてミツハさんの胸元の寝巻きを握り締めた。っふ、う、と鼻から抜けるような吐息を吐いて温い唾液を嚥下すれば、ミツハさんの唇はちゅっと音を立てて俺から離れていった。
 俺はただただ吃驚して息を乱した。驚きすぎて抜けた顔をしているに違いない。目を大きく開いて、目前のミツハさんを見つめた。

「…泣き止んだな?」

 ミツハさんが濡れた唇を舐めながらにこりと笑んだ。
 確かに、吃驚して涙も引っ込んでしまっていた。けれども、それ以上に、え、現状を理解できないのですが。
 俺が目を白黒させていると、ミツハさんは「んーっ」と伸びをして俺を抱えながらベッドから上半身を起こした。ギシリと軋むベッドの、その温いシーツから掬い上げられた俺は、ようやくミツハさんとのキスを理解して赤面していた。

「う、うぇ、え?」

 涙と鼻水で汚れた両頬を手で覆って、俺は言葉にならない声を上げた。ミツハさんはそんな俺の隣で頭をかきながら欠伸を噛み殺している。そしてもう一度んーっと両腕突き上げて伸びをしたミツハさんは、「ま、美味しい目にもあえたしいいか」と呟いた。なんのことだとミツハさんに視線をやれば、ぐりぐりと頭を撫でられる。

「ミ、ミツハさん?」

 意味がわからずに名を呼べば、ミツハさんはまた「どうせなら混ざればいいのになぁ」とよくわからないことを続けた。だからそれはなんのことですか。
 俺はとりあえず曖昧に首を傾げてそれに返す。ミツハさんはそんな俺にまた苦笑した。

「ま、いいさ。とりあえず起きるか…それともやっぱり一緒に寝るか?」

 ミツハさんがフフ、と俺を見て妖艶に笑った。俺は舌先に絡んだ熱を思い出してぶんぶんと首を振った。またあんな風にされたら心臓が止まってしまう。
 そうすれば、ミツハさんが口元をにっこりと緩めて「そりゃ残念」と零した。悪戯に成功したようなその少し意地悪い表情も素敵です。


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あきゅろす。
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