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Lv.2-12
 そんな自虐的な考えに溺れていれば、鏡は「そこをなんとかさー」と手を合わせて俺たちに詰め寄ってくる。

「だってあの人、怒って俺のこと『制限(ルール)』で締め出しちゃってさ、『なか』に入れてくんないんだよ」

 大きな身振り手振りを付け加えて鏡が未来に懇願する。更に「頼むからさ」と言い募られ、未来は両手に持っていた袋を抱えなおし、また一つ息を吐いた。はぁ、という音がやけに大きく聞こえるのは、俺が未来に密着しているからなのか、それともこの場所が静か過ぎるせいなのか、とにかく、俺は未来の一挙手一投足に集中する。

「…ミツハになにしたんだかしらねぇけど、これ以上…こんなところで足止めされたくねぇからな」

 「引き受けてやる」と未来が言えば、前にいる鏡は「助かるよー!」とその場で飛び跳ねて喜びを示した。そんなに重要な用事なら、ミツハさんを怒らせたりしなければいいのに。というか、ミツハさんを怒らせたような相手に手を貸すなんてどうかと思うけど。
 俺は未来をじっとりとした視線で見上げた。そうしていれば、不意に未来が俺を振り返った。

「彼方…大丈夫か?」

 そして小さく俺へ声をかけてくる。その言葉に、俺は未来が『足止め』を嫌った理由が俺にあることを悟った。こんなときでも俺を気遣ってくれていた未来に、頬が熱くなった。むしろ申し訳ないというか。

「あ、俺は…大丈夫」

 俺がそうおずおずと答えれば、それまで鏡との対峙でやや強張っていた未来の表情が和らぐ。サングラスの下で目尻が下がって、口元が上がった。フッと安心したそれに変わる。「そうか」とだけ零して、再び前に向き直った。俺もそれに従う。
 そして視界に映った件の鏡が、興味深々とした様子で俺たちを見ていたのに気付いた。
 両手を頭の後ろで組んで、ニコニコと人好きのする笑みを浮かべている。否、ニヤニヤか。むしろどこか面白い玩具を見つけたときのような顔だった。嫌な予感しかしない。

「ふーん、未来ちゃんってちゃんと笑えば可愛いね。フフ、彼方ちゃんもなかなか、フフフ」

 フフフと笑うその姿は、見た目だけ人形のようなのに中身がどうにもこうにも胡散臭い。正直、親父臭いというかなんというか。あまり付き合いたくない。

「…引き受けねぇぞ」

 未来がぼそりと呟いた。むしろ俺としてはもうこんな奴放ってミツハさんのところに戻りたい。
 鏡は慌てたように、けれどもあまり反省の色を伺えない表情でその形のいい唇を開いた。

「ああごめんごめん、そういわずにさ! 俺この用事すますまで上司に帰ってくるなって言われてるんだよ。もーその上司がまたおっかなくてさ、俺このまま帰ったら殺されちゃう、だから頼むよ!」

 「本当、この通り!」と小さな身体を折り曲げて鏡が言う。その勢いに俺は少し圧倒されてしまう。未来がまたチッと舌打った。

「…だったらグダグダ言ってねぇでその用事とやらをはやく教えろ」

 なんだかんだいって、結局人のいい未来は鏡の頼みを聞いてしまうんだ。…いや、単に早く帰ろうとしてくれているだけかもしれないけれど。

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