泣くくらいならいっそ逝かせてください。
★ちょっとヤンデレ風味。でもほんのり甘い。
軋みそうな感覚に起きてみれば、シズちゃんが俺の首を絞めていた。
俺は抵抗もせずにその行為を受け入れる。
俺が眼を覚ましたのに気付いたのか、一瞬力が弱まる。
ひゅう、と吸えば酸素が入ってくる。ゆっくり吸わないと過呼吸になるからね。
そのまま手に力は入ってこなかった。嗚呼、また失敗だね、シズちゃん。
「げほ、シズちゃん」
「言うな、俺は、こんなことがしたいんじゃ…」
頭を抱えた彼はとうとう泣いてしまった。また泣くんだから。
ねえ、どうして俺を殺すっていつも言うのに、ね。
いざとなったら壊れたように取り乱して泣くんだから。
「ねえ、泣かないでよシズちゃん」
「…手前、何時も抵抗しない、よな。死んでもいいのか、」
「殺すつもりで俺の首を絞めてたんでしょ?だったら遠慮しないでいいのに」
俺が嫌いなんでしょう?
だったら、一思いに首を絞めてくれて構わないのに。
でも、出来ないのがシズちゃん。
知ってる俺もタチが悪い。
「ねえ、俺はねシズちゃん。死にたくないけど、シズちゃんになら殺されてもいいんだよ。この意味分かる?」
「………」
「俺は、最初から、君のことが好きだよ。興味本意で近付いた癖に、今更何を言うんだって怒ってくれていいよ。」
本当は、君のことを見ていなかった。力だけを見ていた。人に無いものを。
だけど、気付いたんだ。俺は恋をしていたことに。
暴力が嫌いなくせに短気だから、力が暴走することに嫌悪して絶望して心が泣きながら力を振るうことを知ってしまった。
知って、しまったんだよ。
俺は自重気味に笑う。
「ねえ、俺って酷い人間だよねえ。今までしたこと全てが最悪だよ。結構ギリギリなことしたけど、もうしない。」
未だに涙が零れるシズちゃんの顔に触れる。嗚呼、暖かい。
当たり前のことに感動しながら、俺は笑う。何時の皮肉な笑みではなく、素の微笑みで。
「俺はシズちゃんが好きだよ、それこそ今から首を絞められて殺されるって分かっていても抵抗しないくらいにはね。」
「い、ざ」
「俺だけ好きなのってやだよね、でもシズちゃんは俺のこと嫌いなんでしょ?だからさ、抵抗せずに殺されたかったんだけど、いつも途中でやめちゃうから、俺もう我慢できなくなったよ」
「臨也」
気付いて。いい加減俺の気持ちに気付いて。
苦しくて死にそうだよ、本当に。だからだからだから。
「殺すなら殺して、お願い。せめて、君の手で逝きたい」
呆けているシズちゃんの額にキスを落とす。
ジッと見てくるシズちゃんの手を掴んで俺の首へと持ってくる。
それでも力は入らないから、俺は苦笑する。
「男で大嫌いな俺に告白されて引いてる?ごめんね、言うつもりなかったんだけど、言ったら気持ち悪がって殺してくれるかな、って思ったんだよね。」
嗚呼、もうこれで終わり。
君との会話もこれで終わり。
早く殺して。じゃないと、もう泣いてしまいそうだ。
これ以上は俺でも耐えれないよ。生きている限り、俺はすっと君を好きで居るから。
「臨也、い、ざ」
シズちゃんの顔が歪む。そう、嫌でしょ?気持ち悪いでしょ?
だから、だから。お願いだから。
「ごめん、ごめん」
謝りだしたシズちゃんに、今度は俺の顔が歪む。
「謝る意味がわかんないよ…!いいんだって、殺してくれて、俺は」
もうこの気持ちに気付かせないで。早く、殺して。
(涙が出る前に)
「ごめん、…俺も手前が、好き、でごめん」
ボロボロと泣きながら言うシズちゃんが俺に薄く笑う。
何かが壊れた音がした。
例えるなら、花瓶を落としたような。
止まらなくて、俺は顔を腕で覆う。それでも泣いていることに変わりはないけれど。
(俺たちは、いまさらながらにお互いの気持ちを知った)
(それこそ、一度は死にたいと絶望するまでに)
「好きに、なって」
ごめん。好きになって、ごめん。
そんな風に謝られても困るよ、俺だって好きになってごめんね。
お互いが泣きながら謝った。
傍から見れば異様な光景なのだろう。
けれど、俺達は気付いた。
「好きだ、臨也」
「好きだよ、シズちゃん」
気付いて、しまった。
抱き寄せた身体からジワリと滲む暖かさに、また涙が零れた。
100420
ちょっとヤンデレな臨也。
まあでも愛故に、ですよね。
殺したいのに殺せないシズちゃんと、気持ちを隠したまま死にたかった臨也。
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