4.
「それじゃあ、これを買う?」
「はい。それと……」
一つ首肯してから、俺は視線を横にずらした。もう一つ、さっきから目星をつけていたものがあったからだ。確かここに……あぁ、あった。
「すみません、これもお願いします」
深い青色をした、滴形の宝石のネックレス。光の反射した部分がアクアブルーに見えて綺麗に光ってる。あんまり目立つものじゃないけれど、こういう方が好みが分かれなくていいんじゃないだろうか。……と、思うわけなんだけど。
「あら、それも買うの?」
不思議そうな女性に、えぇと頷いてみせる。
「上にもう一人、妹がいるので」
「あらあら、妹さん思いの良いお兄さんねぇ」
羨ましいわ。なんて続けながら、彼女は包みを取り出した。
「それじゃあ、袋は別々の方が良いかしらねぇ」
「はい、お願いします」
それぞれ宝石と同系色の色の袋に包んでもらう。その方が間違えなくて済むからだ。そうして差し出されたものを、代金と引き換えに受け取る。結構な金額だったけれど、まぁ気にする必要はない。
「きっと喜んで貰えるわ」
女性の言葉に俺は少しだけ苦笑する。ソフィーはともかく、サラはどうだろう。男の俺にはいまいち好みというものがわからないんだけど。
「そうだと嬉しいですね」
そう言えば、後ろから軽い足音が聞こえてくる。慌てて俺は袋をポケットに入れてから振り返った。
「お兄ちゃん、買いに行こう!」
「あぁ。じゃあ、そうしようか」
どうやらソフィーの方も終わったらしい。結局買ったんだろうか。それはわからないけれど、手を引っ張るソフィーに断るはずもなく、俺は一度だけ女性を振りかえった。
「有難うございました」
「いえいえ、またどうぞ。お譲ちゃんもね」
最後まで穏やかな笑みを絶やすことなく手を振る女性に、ソフィーも嬉しそうに手を振る。そうして当初の目的だった場所へと俺達は歩を進めた。
「どこだったっけー……?」
「多分こっちだよ。……あ、ほらあった」
俺が指さした先にあるのは、縁に細かい宝石が埋め込まれている手鏡だ。実を言えば、今日はこれを買いに来たわけなんだけど。
「半分こだよ!」
「いいよソフィー、俺がこれだけ出すから……」
「だーめっ! お姉ちゃんへのお祝いだもん、半分こだよ!」
結構な値が張るものだから、半分でもソフィーには手痛い出費だ。けれども頑なに主張しているし、確かに半分出す方がソフィーも満足するだろう。
「じゃあ、そうしようか」
「うんっ! すみませーん、これくださーいっ!」
大きく頷いて、ソフィーが売っている人を呼ぶ。それを聞きながら、俺は何となくポケットの中の包みを確認した。いつ渡そうか。帰ってからで問題ないだろうか。うん、そうしよう。
「お兄ちゃん、買ったよー!」
「そっか。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
隣の村だからと言っても、結構な距離がある。疲れたら箒で飛べばいいとしても、やっぱり時間はかかってしまう。あんまり遅くなっても夕飯が遅くなるし……多分、今日はノエルやラウルも一緒だろうから、それはちょっとまずい。
「うん、帰ろう!」
片手に袋を提げたソフィーが、俺に手を伸ばしてくる。それを握りながら、俺達は村を後にした。
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