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ド短編 小間切れ集
魔王 勇者
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それでも
わたしは 愛して、た


槍で貫いて、首をはねた魔王

首を持ち帰れとの命に逆らい、魔力により産み出した炎で灰すら残さず焼き付くす。

あの濃紺の髪も、共に旅して日に焼けた肌も


唯一、魔王の証である角だけを残して


もう、それで十分だろう

すべてを 私の感情も終わったような気がして


体温を失っていく角を抱き締めた。

旅の仲間は 先を急ごうと背後でせき立てる


ふと、頭をよぎる

ぶっきらぼうで、かさついた冷たい手をしたひとだった

髪を撫でる手も、肌に触れる唇も、私を見つめたあの目も

にせものだったのだろうか

先にいけと 口を開こうとして、押し黙った



自分でもなぜ、そんなことをしたのかは わからない


振り向き様に、仲間に対して放った言葉は 魔力を帯びて

強制的に 王城へと 送り届けるものだった。


魔王を、倒した証なら 彼らの 記憶だけでも、事足りる



空っぽになった魔王城の玉座の間で

立ち尽くしたまま、角だけになった亡骸を抱きしめる

抜き身のままの剣は、数少ない松明の火にきらめいて

振り上げたそれは、深々と腹を貫いた。

ぷちっと皮が裂けて、

あつくて いたい

いたくて かなしい

悲しくて







いきて、ゆけない



二度、三度と ためらいながら 何度もあきらめず、我が身を裂く



何も考えてはいなかった


やってしまった後に、手の中には、角だけで


それを ひどく幸福に思いながら、濡れてあつく腫れぼったい目を閉じた。

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あきゅろす。
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