*落書き置き場*
【日記内SS】ラストオーダー


2012/1/22公開
ラストオーダー番外SS【蜂蜜の檸檬漬け】




「優希、何それ」

隣に座る菅田がそう言って首を傾げるので、自分も同じように首を傾げてみせた。
そろそろ大学の一限目が始まる、朝の講堂内。
机には、ルーズリーフやテキスト、筆箱などと並んで、小さな四角い茶の紙袋がちょこんと置いてあった。
菅田はそれを指差しているから、この袋の中身が知りたいのだろう。
だが残念ながら、自分も中身は解らないのだ。


大学に登校する途中に、いつもあの喫茶店の前を通る。
今日も変わらず喫茶店の前を通り、掃き掃除をしている店長さんに日課になった朝の挨拶をすれば、ニコニコと柔和に微笑んだままの店長さんが、一つ紙袋を渡してきた。

「何ですか、これ?」

問うてみても、店長さんは微笑みのまま。
ただ一言、「学校に着いたら開いてみて」と述べただけ。

大学に着いて一息吐いてから、ソッとその袋を開いてみた。
菅田も興味深そうに身を乗り出して見ている。
中には、金色の蓋が閉まった手のひら大のプラスチック瓶。
静かに袋から出してみて、更に首を傾げた。
瓶の中には、何やら黄色い物の薄切りと謎の液体が詰め込まれていた。

ふと、瓶の側面に何かメモが貼り付けられていることに気付き、それを剥がした。

途端に、パァッと視界が明るく輝くのが解る。
メモには、少し投げ遣りな薄い筆跡。
書いた主の名は書かれていないが、筆跡だけで解るくらいに自分はその主を想い続けている。
ニマニマと上がる口角を隠しきれずにいれば、手元のメモを見た菅田が苦笑を漏らしてから瓶を指で小突いた。

「愛されてるな、優希」

茶化す様な声に、何度も頷いた。

『風邪予防になるから』
たったそれだけのメモ。
でもそれは、大好きなカナタさんの字。
瓶の中には、薄切りのレモンとたっぷりの蜂蜜。

口下手な恋人は、やっぱり文字でも口数少なく。
でも、それなのに、こんなにも気持ちが伝わってきて。

「頂きます!カナタさん!」

指でレモンを摘まんで口に放った。
まだ少し酸っぱくて、でも甘い。

今日はカナタさんにホットレモンを作ってもらおう。
照れ臭そうに口を尖らせる姿を思い浮かべて、胸が締め付けられるのを感じた。




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あきゅろす。
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