Story-Teller
X



背中から伝わる関の体温がじわじわと身体中に浸み込んでいくことに、知らずに耳や頬が熱を帯びた。脳の活動を麻痺させるような緊張感が一気に噴き出すようだ。
背や肩に触れる関の鍛えられた胸や腹筋の形が、はっきりとわかる。強く抱き寄せられて、もう離れられないのではないかと錯覚すら覚えた。
耳に掛かった関の息に、怯えるように固まっていた肩がびくりと大きく揺れる。
じわじわと少しずつ首を絞められているような緊張に堪えきれず、相楽の肩を抱いたままだった関の手をしっかりと掴んだ。


「関……もう大丈夫だから、離して」

「あ、ごめん」


ようやく手を離した関から、俯いたまま距離を取った。片手で撫でた頬が、僅かに熱い。
誰かにこんなにも強く抱き締められるのは初めてだった。逃げ場が無くて、相手の意図が読めなくて、伝わる体温がどんどん思考を止めていく、ひどく恐ろしい感覚だった。
男相手に何を緊張しているんだ、と一度首を横に振ってから、勢いよく顔を上げる。


「ごめん。次は気をつける」


相楽が言えば、何も言わずにじっとこちらを見つめていた関がはっと目を見開いてから大きく瞬きを繰り返した。
暫しそうして何か言いたげに口を半開きにしていた関だが、次の瞬間には、へらりとした締まりの無い笑みを返してくる。


「なんだったら、手でも繋ごうか?」

「いらない!」


茶化す様に白い歯を見せて笑う関に、相楽は眉を吊り上げて関に背を向けた。こちらは本気で戸惑っていたというのに、関はおどけてばかりだ。
関相手に赤面してしまったことが妙に悔しくて、顔を合わせるのすら嫌になる。
後ろから「じゃあ、お姫様抱っこでもいいよ?」などとさらに笑いながら言う声がした。振り返って近くにあった木の枝を投げつければ、大袈裟に悲鳴を上げる。




ずんずんと大股で先を行ってしまう相楽を追いながら、関はそっと視線を下ろした。
握り締めた手を開き、そしてまた握り締めると、そこに残っている相楽の体温がはっきりと蘇ってくる気がした。
視線を上げてみれば、耳まで紅くしている相楽の小柄な背中が遠ざかっていく。


相楽が体勢を崩した瞬間に、咄嗟に手を伸ばしていた。ほとんど脊髄反射だ。
視覚では、相楽が上手く木の幹へと身体を寄せる姿を捉えていたのに、まるでそれを阻むような動作だった。
関が手を差し伸べずとも、相楽ならば転ばないだろうが、ほとんど無意識で彼を抱き寄せていた。

腕の中にすっぽりと収まってしまった相楽の体は、関と同じ軍人で、多くの防衛軍隊員たちの最前線に立つ精鋭部隊の一人で、しかも同性だとは思えない程に、細く小さい。
掴んだ手首は、もう少し力を入れたら折れてしまいそうで、密着した体から、相楽特有の甘い砂糖菓子のような香りがした。
柔らかな髪が首にふわりと触れると、堪えきれずに肩を抱いた。そうすると、相楽が息を飲む。
相楽の体が一気に強張ったことに気付いていたが、抱き寄せる力は少しも弱まらなかった。

相楽が戸惑っていることに気付いていた。離さなければ、相楽がもっと困ることも。
それなのに、相楽から離れるべきだという意思と反して、その身体を微塵も動かせないほどに拘束する力が弱まることは無かった。
相楽の手が関の腕を掴まなければ、何か、とんでもないことを仕出かしていたかもしれない。
もう一生、近くに来てくれることも無くなるほどに、酷いことだ。




まだスピードを落とさずに草を踏みしめて進んでいく相楽を追いながら、片手で額を押さえた。
あー、こりゃあまずいな。と、小さな声で呟いて、苦笑してしまう。


「俺、本気で相楽のこと好きなんだな……」


呟いた声は、幸か不幸か、相楽本人には届かなかった。



[*前へ][次へ#]

5/17ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!