Story-Teller
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はぁ、と重い息を吐き出してから、相楽は眉を寄せる。
頭に血が昇ってしまっていた。三条寺相手に怒鳴るだけ無駄だというのに。

三条寺は一層顔を赤く染めて、肩を震わせている。
相楽に口答えされることすら苛立たしいだろうに、彼が憧れ続けている『ファースト・フォース』の立場として反論してしまったのだ。

彼を煽っただけかもしれない、と思い至り、踵を返して三条寺に背を向けた。
南野と湊都には悪いが、相楽がここに居れば事態を悪化させるだけだ。


「今に捨てられるくせに!」

背後で三条寺が叫ぶ。
足を止めれば、三条寺の荒い鼻息まで聞こえてきそうだ。

「お前なんか、さっさと捨てられて終わるんだ!! お前はファースト・フォースには相応しくないんだからな!! 足手まといのお前なんかっ……」
「じゃあ、ファースト・フォースに相応しいヤツってどんなヤツなの?」

不意に聞こえた声に、相楽が目を見開く。
突然眼前を覆った「黒」に捕まり、力強い腕で肩を抱かれた。

硬い胸板に顔面を押し付けられ息苦しさで低く呻いてから顔を上げると、そこには見知った顔がある。

常人よりも逞しい身体をした、明るい笑みを見せる精悍な顔付きの青年が相楽を抱き留めていた。
その青年の背後から顔を覗かせたのは、派手な赤いメッシュを入れた金髪が眩しい優男風の男性。

ここに居る筈の無い黒いブルゾンの二人組に、相楽は大きく目を丸めてしまう。

「桜井さん、関……?」

呟くと、相楽を抱き締めたままの関は「おう」と軽く返した。
負傷している左腕を庇うように相楽の両脇に手を入れて、体を支えながら地に足を着けさせた後、関は白い歯をニッと見せて快活に笑う。

関の隣を擦り抜けてすたすたと三条寺の前まで歩いていく桜井を見送ってから、相楽はどうして、と関へと視線を戻した。


「巡回は……?」

問うと、関は腕時計を指差す。十二時三十分を過ぎた頃だ。

「昼休憩の時間だから、戻ってきた」
「どうして、ここに?」

相楽が続けて問えば、三条寺の前まで来て振り返った桜井が笑う。

「昼飯一緒に食おうと思ったのに、オフィスに居る筈の相楽が見つかんないんだもん。迎えに来てやったら、」

先程三条寺へと問いかけた声と同じ。桜井の声だ。
再度三条寺を見た桜井は、ふっと微笑む。
その笑みを真っ直ぐ受け止めている三条寺の膝が、面白いほどに揺れていた。
それに気付いた相楽が慌てて関を見上げれば、彼は楽しそうに笑うだけだった。

桜井は、続ける。


「キミ、なんか面白いこと言ってなかった? えーと、相楽が、ファースト・フォースに相応しくない、とか」
「相楽が枕営業してる、とかも言ってましたよね」

囃し立てる関の胸を右腕で叩けば、関は「黙ってろ」と言わんばかりに相楽を背後に押し遣ってしまう。
関の肩越しに見えるのは、桜井の後ろ姿と、震えて蒼褪める三条寺だけだ。

姑息だが、度胸だけはある三条寺だ。そんな三条寺が、ぶるぶると震えている。
こちらからは表情の窺えない桜井の顔を見て。

もう一度関を見上げてみても、彼は桜井と三条寺をいたって面白そうに笑って見ている。


「色々聞いてみたいことはあるんだけどさ、昼飯食う時間無くなっちゃうから、また今度改めて聞きに来るな」

どうやら桜井は笑ったらしい。声は楽しげだ。
しかし、そう告げられた瞬間に、遂に三条寺はその場にへたり込んでしまった。

ガタガタと震える三条寺を見下ろした桜井は、ふい、と一ノ宮と四ツ谷に視線を移す。
びくりと肩を揺らした二人は、そのまま硬直してしまった。

「桜井さ……」

相楽が声を掛けようとすれば、関の大きな手が相楽の口を塞ぐ。
抗議するように見上げると、関は空いている方の手で人差し指を口元に立てる。静かにしろ、というジェスチャーだ。

視線を動かして、湊都と南野を見る。
一体桜井が何をしたのか解らないが、彼らまで蒼褪めているではないか。
関の楽しそうな顔といい、桜井が現在進行形でまずいことをしていることだけは、はっきりと解っている。止めようとしても、関の屈強な腕で遮られている相楽には、どうしようもできなかった。



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