Story-Teller
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「で、他になにか言いたいことは?」

相楽が呆れた表情で問えば、三条寺は途端に顔を歪める。
笑みは無い。
感じるのは怒りと、憎しみと、それから大きな嫉妬だ。


相楽がファースト・フォースに引き抜かれてから、三条寺が一層相楽の悪い噂を流し始めたことは、湊都から聞いて知っていた。
憤怒して話す湊都を諌めながら、心から呆れていた。それと同時に、僅かばかり同情していた。


三条寺は、前線部隊を、もっと明確に言うならば『ファースト・フォース』への配属を強く望んでいた。
文句無い出世コースだ。
前線を希望するものなら、皆ファースト・フォースへの配属を目指す。

しかし神様の悪戯か。
ファースト・フォースに微塵も興味が無かった相楽が引き抜かれたのだ。
ファースト・フォースに入るために成績優秀であろうとしていた三条寺ではなく、相楽が、だ。
そこに同情している、なんて気付かれたら、三条寺は憤死するかもしれない。



「お前、実力で精鋭部隊に入ったとでも思ってんのかよ」

三条寺が低い声で言う。
相楽を引き抜いた篠原直々に『成績が良かったし、使えると思ったから』と告げられた相楽にとっては愚問である。実力以外の何がある。

「顔が良いのを利用して、色んなやつに枕営業したんだろ。そうじゃなきゃ、なんでお前が」

枕営業?
思わず笑いそうになるのを堪えながら、冷静に三条寺を見る。
顔を真っ赤にして、今にも飛び掛ってきそうな形相だ。

「ファースト・フォースでも、隊員と寝てんだろ。俺のこと守って下さい、手柄を下さいってさ。何人も相手して、悦んでんだろ。淫乱が……」
「ねぇ」

無視を決め込もうとしていたが、一気に気が変わった。
腹の中が熱い。
徐々に、内に沸いた怒りが大きくなる。

すっと目を細めて三条寺を見据えると、彼はごくりと息を飲む。
今まで、反論らしい反論はした事はなかった。
そんな相楽が、反抗的な目を向けてくるのが意外だったのかもしれない。


「俺が頼めば、あの人達が俺を守って、俺に手柄をくれるって言ってんの……?」

静かに、けれど低く低く問う。
今にも殴りたい衝動を抑えて、真っ直ぐ見据えて。
篠原の真似だ。あの人は、本当に怒っていると怒鳴らない。
静かに、問うのだ。相手の過ちを、一つずつ打ち破るために。


豹変した相楽に息を飲んでいた三条寺は、それでもグッと拳を握って相楽を睨んでくる。
どうにか持ち直した三条寺は、鼻で笑ってから口を歪ませた。

「案外イケるんだろ? 手慣れた淫乱の相楽だったら」
「ふざけんな」

ぽつり、と漏らした声が、思った以上に怒りを孕んでいる。
篠原のように徹底して感情を押し殺すのは無理だったらしい。
煮えるような怒りが、爆発する。


「あの人達がどれだけ辛い目に遭いながら戦ってると思ってんだ。
一歩間違えれば死ぬかもしれない場所で、何を考えてるか解ってて言ってるのか。
手柄なんか考えてねぇよ。交戦で一般市民を巻き込まないか、UCの回収で誰かに被害が及ばないか、全部守んなきゃいけねぇ『誰か』のことしか考えてないんだよ」

吐き出した語尾が強くなる。
腹立たしいのだ。
三条寺が、『ファースト・フォース』をどれだけ軽く見ているのかが。

「枕営業だって? 上等だよ。それであの人達が救われるんだったらな!
そんなんで皆が無事に帰ってこれるなら、俺は何だってしてやるよ! 命懸けてるあの人達を軽く見てんじゃねぇよ!」


叫んだ喉が熱い。
見つめる南野と湊都は目を丸め、三条寺はわなわなと唇を震わせていた。



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