Story-Teller
V



「─やめろ! 高山っ!」


悲痛に叫んだ声は、高山に届いたのだろうか。
届いたのか、届かなかったのか、わからない。高山は動きを止めなかった。

一瞬の隙に身を捩ると、篠原を覆ったままだった高山の手が両手首を捕らえる。抵抗する間もなく手首を捻られて、痛みに歯を食い縛った。
高山の襟から抜き取られたネクタイが、素早く篠原の手首を括ってしまう。
肌に食い込むほどに固く縛られた手を頭上に追いやられると、無防備なまでに四肢を高山に晒す姿になった。
はっと息を飲んだ篠原を一瞥してから、彼は再度身を屈める。
シャツを捲られて露になっている割れた腹に、高山が歯を立てて噛み付いた。
刺すような痛みに呻いて首を横に振ると、暗闇の中から高山のくぐもった笑い声が聞こえてきた。


最悪だ。

高山は、何度も何度も篠原の身体にしゃぶり付いては、生々しい紅い痕を残していく。
まるで情事を思わせるその行為に、羞恥と戸惑いで上擦った声で高山を呼べば、彼は酷く楽しそうに笑うだけだった。

篠原が恥辱を感じて屈服させられているのを喜んでいるような、そんな笑いだ。
それに気付いた瞬間、ぞわぞわと不快感や得体の知れない恐怖が身体中を侵食していった。

脇腹を強く噛まれて痛みに身を捩ると、その隙に首筋まで移動してきた高山が、ザラリとした舌で鎖骨を舐め上げる。
不意に感じた舌の感触に、鳥肌が立った。


「─なっ……高山、」

「随分敏感なんだな。抱かれた経験でもあるのか」


くすくすと嘲るような笑いが返ってきて、怒りで体が熱を持った。
咄嗟に頭上の腕を振ろうとしても、括られたままデスクに押し付けられてびくともしない。
もともと自分よりも体格の良い高山に押さえ込まれた身体は、抵抗すら微々たるものになってしまう。
必死に身を捩って逃げようとするほどに、追い詰めるように肌を舐め上げられる気味の悪い感触を与えられ、いちいち身体を震わせることしか出来なかった。

腹や鎖骨を舐め、または歯を立てていた高山の口が、不意に離れる。一度こちらを見下ろした高山が、篠原のシャツの裾に手を掛けた。
やめろ、と幾度目かの制止を吐き出した篠原は、喉を引き攣らせた。
さらに上に上げられて外気に触れた胸に、高山の無骨な手が這って、なぞり出したからだ。


「高山! 相楽は……、っあ……!」


もう、猶予などない。と、高山へと口を開いて吐き出した言葉は、高い嬌声に変わってしまった。己から発された喘ぎ声にに、一気に羞恥が沸き上がる。

ついに篠原が発してしまった嬌声に、ちろりと舌先で乳首を舐めていた高山は嫌な笑いを響かせて、その笑い声に篠原は唇を噛み締めた。
その後も、身体中を隈なく這っては強く歯を立て、それから労る様に舌でなぞり上げる高山の動きに、生理的な涙が零れそうになる。必死に声と涙を抑えると、そんな姿に高山は満足そうに笑っていた。
弁解しようとして口を開けば、そこから漏れる自分の悲鳴のような声に嫌気が差した。唇から血の味がするほどに歯を立てて噛み締める。


不意に、自分のベルトが緩められる感覚に、びくりと身体中を震わせた。
慌てて視線を落とせば、暗がりの中で高山がベルトを引き抜くのが見える。篠原の片足に馬乗りになって、引き抜いたベルトをゆっくりと床へと落とした。
かちゃん、とベルトのバックル部分が床とぶつかる音がする。
息を飲んで高山を見上げると、彼の手が篠原のカーゴパンツのファスナーへと移動した。じりじりと引き下ろしていく彼は、笑っている。

その笑みを見つめたまま動けないでいた。最後まで引き下ろされるファスナーの音が聞こえてくると、絶望感がはっきりと這い上がってきた。
高山の内心が全く読み取れずに混乱した頭が、必死に高山の名前を叫んだ。


「高山!」


オフィスに篠原の声が響くと、高山は笑みを消した。
抵抗して動いているネクタイで纏められた篠原の両手を片手でしっかりと押さえつけた彼が、空いたもう片手の指先を、開いたファスナーの先へと侵入させる。


嫌だ、と篠原が叫ぶと同時に、小さな異音が、オフィスに響いた。





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あきゅろす。
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