Story-Teller
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関に促されて、相楽はヨロヨロと幹の上に座り込んだ。足から力が抜けて、脱力感が襲っている。
座り込んだまま関を見上げれば、やはり彼は難しい顔をしたままだった。


「ここにある『UC』って、ずっと地中に埋まってたって言うだろ。もしかしたら、この周囲一帯の地中にエネルギーが浸み込んじゃって拡散されてるのかもしれない」

「……UCはコンパス狂わせたり、通信を妨害したりするの?」


問えば、関は首を捻りながら腕を組んだ。


「最近の研究でその可能性が有るのが解った、って前に木立さんから聞いた気がする。まだまだ判明してないことが多いからな、『UC』って」

「……そういう可能性が有るって知ってたのに、関はそんなアナログな方位磁針持って来たの? 軍用のコンパスじゃなくて、量販店で売ってそうな、そういう、それを」


関のポケットに捻じ込まれている簡易型のコンパスが憎い。見上げて睨めば、目が合った関は途端にヘラリと歯を見せて笑った。
よいしょ、と声を上げて隣に座る関を見れば、先程までの難しい顔はどこへ行ってしまったのか、いつもの気の抜けた明るい笑みが返ってくる。


「篠原隊長達が探しに来てくれるの待とうぜ! 日が暮れたら真っ暗だし滅茶苦茶寒いだろうから、早く来てくれるといいなー」

「……最悪だ」


相楽が呟いて膝を抱えれば、関はケラケラと笑い声を上げる。遭難したというのに、関は相変わらずに明るく微笑んでいた。
この笑顔が関と相楽の経験値の差なのか、それとも関が楽観的すぎるのか、今の相楽には推し測れそうになれない。

「せっかく相楽の『初! UC確保任務!』だったのになー。ごめん、失敗だな!」

「……今度はちゃんとUCのこと調べてから来る……」

「そうそう、良い経験! 良い経験! その前に、俺ら無事に帰れるのかな?」


陰鬱に沈む相楽と裏腹にケタケタと笑っている関を無性に殴りたくなる。
縁起でも無いことを言う関を睨むと、誤魔化す様な力の無い笑みが返ってきた。

反論しようと口を開いた相楽は、そのままごくりと息を飲んで口を閉じる。
相楽が口を閉じたのとまったく同じタイミングで、関が素早く中腰になった。その手が、腰に巻いたホルスターに伸び、そこに納められている銃を掴んでいる。

薄暗い樹海の中、相楽と関の声、そして木々が擦れ合う音以外に、何かが聞こえた気がした。
反射的に木の幹に寄り、伸びきった草に隠れるように姿勢を低めた。息を潜めると、草木を踏み締めて近付いてくる足音が聞こえる。
隣で息を潜める関をそっと窺うと、関は鋭い視線で遠くを見ていた。関の、任務最中の時にしか見れない、緊迫した目だ。


関の視線の先に、揺れる人影を見つける。

探しに来てくれた篠原たちかと思った。
こんな木々が鬱蒼と生い茂る陰気臭い森に、一般人がわざわざ来るようには思えなかったからだ。


しかし、見えたのは篠原ではない。
大声で怒声を上げながら近付いてくるのは、五人の男だ。
年齢は、三十から四十程度。
相楽はすでに見慣れているエネルギー計測器や、UCの保護バッグを持ち、腰には警棒やスタンガンを装備している。
身を潜めている相楽と関に気付いていない彼らは、なおも声を張り上げた。


「最新のコンパスが狂うだと?! どうなってるんだ、ここは!」

「だから言っただろう! もっと大勢で一斉に取り掛かれば、簡単にUCを見つけられたんだ!」

「仕方ないだろう! 派手に動くとファースト・フォースに捕まるんだからな!」


怒鳴り合う声は止まりもせずに近付いてくる。
彼らから視線を外して隣の関を見れば、身を屈めた彼が相楽の耳元に口を寄せて囁いた。


「俺たちみたいに『UC』を探しに来たみたいだな」

「……関、あれ見て」


身を潜めたまま彼らを指差せば、関は眉を寄せる。

彼らの腕には一様に同じ腕章が付けられている。象られているのは、真っ赤な紫陽花の花だ。
それに気付いた関が小さく舌打ちを漏らす。

その腕章が示すのは、彼らが反UC派団体である『紫陽花組』だということだ。





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あきゅろす。
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