True Rose
 〜記憶の海〜




 城の一角で、ファイは静かに佇んでいた。ここがファイの行ける場所で一番高い所だった。
 視線を外に向ければ、街が広がっていた。いくつもの小さな家々が、軒を連ねている。
 ファイは、ただ一人でそれを静かに見つめていた。
 国は、広かった。この国で一番高い城に居ても、全てを見渡す事は不可能であった。ここに、どれだけの人間がいるだろう。
 ファイが守るべき民。守るべき国。それが、彼がここにいる理由だった。
 騎士長でいる理由など、ただそれだけだった。ファイにとって、地位など煩わしいだけでしかない。
 貴族達は、殆どが地位や名誉を欲した。上流貴族の出のものは、それを誇りとしていた。だが、ファイから見たら、そんなものは空虚なだけだった。ただ、与えられるもの、そこにいるだけのものでは、意味がないと思う。
 だから、必死に努力した。騎士長に見合うだけの実力をつける為に。自分が納得出来るように。また、他の嫉妬深く、傲慢な貴族達を納得させる為に。

「荒れたな、国も……」
 ただ、それだけではどうしようもないこともあるのだ。
 続いていく戦は、ファイの力ではどうしようも出来ない。負けることにならぬようにするだけ、終わらすことを僅かに早めるだけだ。
 それで荒れていく大地も、人の心も、どうしようもないことだった。無力さに唇を噛み締める事しか出来ない。
 神は、自分達を見捨てたのだろうか。そんなことを考えてしまいそうになる。
「……違う、神がそんな事をするものか!」
 自らの内にあるものを否定するように、首を振る。ファイは、無意識の内に掌を固く握り締めていた。
 神は、人を愛しているのだ。愛していなければ、作る筈がない。愛しているものに対し、そんなことをする筈がない。
 だから、大地が荒れるのは、それを呪う存在がいるからだ。
 ――それを、人々は「魔女」と呼んでいた。
人が、人を呪う。大地を呪う。神に作られた存在であ る人間が、神の作った世界を呪い、汚す。そんなことが許される訳がない。だから、神はそれらに怒っているのだ。
 人は、常に他者の助けを当てにする。なんでも、願えばどうにかしてもらえるのだと、吐き気のするくらい他力本願に。だから、自力でどうにかしてみろ、と試しているのではないだろうか。
「……尤もなことだ、それも」
 悲しみを感じている筈、未来への不安を感じている筈なのに、その瞳は冷たさを帯びていた。
 どこまでも、自分はここにいるのだという実感が薄いのだろう。そう、ファイは苦笑を漏らさずにはいられなかった。





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あきゅろす。
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