True Rose
 〜灰の降る世界〜


 群衆から歓声が上がる。早く魔女を殺せと。神に、自分に仇を為す者を殺せと。
 それに応えるように炎の灯された松明が、女へと向けられる。
 赤々と燃え盛るそれは一体何度になるだろうか。近付いてくるそれの熱さに、女は表情を歪めた。
「やれ」
 騎士団団長の短い命令に、部下である騎士は女の足元へ炎を付けた。
「ひぃっ!や、いやぁぁぁ――――ッ!!」
 喉ももう枯れていただろう。それでもその熱さに女からは悲鳴が漏れた。
 かすれすぎたその声はあまりに痛々しい。息も絶え絶えに、それでも声が収まらない。
 炎は足元から上へと勢いよく上る。服が、肌が、髪が燃える。肉の焼ける臭いが辺りに立ち込めた。
 それでも人々は笑っていた。己に訪れるだろう神の祝福を信じて。目の前で同じ人間が人としての尊厳もなく、焼き殺されているというのに。
 ――愚か過ぎる光景に、吐気がした。
「………っ!」
 耐えられなくなったローズは、その場に背を向けて走り去った。
 急いでいたせいで処刑の見物人にぶつかり、迷惑そうな顔をされるがそれ所ではなかった。一刻も早く、この場から立ち去りたかった。







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あきゅろす。
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