True Rose 〜灰の降る世界〜 6 何処をどう走ったかは覚えていない。ただただ、ローズは人気のない方へと走り続けた。 漸く何も誰もいないような、場所へ来て蹲った。辺りに生えている草木が体を擽るがそんな事はどうでも良かった。 ただ気持ちが悪く、体と心を支配するのは不快感のみ。ローズに出来るのは、堅く目を閉じてそれが過ぎさるのを待つ事だけ。 (気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……ッ!) 胃から迫り上がるような不快感。何かに辺り散らしたいような衝動を、無理矢理抑え込む。 ――草の音がした。靴と擦れ合う音がローズの直ぐ後ろから。 ローズを驚かす事のないように、とそろりと運ばれる足。そんな些細なものからも、彼の配慮と優しさを感じた。 「………ローズちゃん」 ローズは応えない。聞き慣れたその声に、僅かに指先が反応しただけ。 それでも、ファイは構わず続ける。 「やっぱり、まだ駄目なんだね……」 小さく頷く。肯定の意だ。 付き合いの長いファイはそれだけで、未だにローズが過去にどれ程捕われているか分かったのだろう。それ以上は何も言わなかった。 「…………記憶に、なんて無い筈なのに、駄目だ……」 震える声を堪えて、それだけを呟いた。 魔女狩り、と聞く度に脳裏に刻まれた紅い炎を思い出す。ただ独り、訳も分からず、炎の中にいたあの時の事を。 ←→ [戻る] |