True Rose
 〜灰の降る世界〜


 あの日――あの炎の中から、孤独の中から、救い出してくれたのはファイだった。
 焼かれた村、殺された人々、全ては「魔女狩り」だったのだとファイから聞いた。あの村で生存者はローズ以外にはいなかった、とも。
 ――否、もしかしたら、万に一くらいはいたかも知れない。ギリギリの状態で逃げる事が出来た者もゼロではないかも知れない。
 しかしそれは限りなく可能性としては無いに近い程低いし、ファイが確認した限りでは皆が炎に焼かれて息絶えていたという。
 悲しいし悔しいと思う。記憶が無いにしても自分が育った村だっただろう、自分が親しくした人々がいただろう。親も、家族も、全てを魔女狩りの所為で無くしたのだ。

「……確かに、魔女はいる……」
 魔術を使える、という意味でその人間を「魔女」と呼ぶのであればローズ自身がそうだ。だからそれは否定出来ないし認める。
 しかし、何が違うというのだろう。同じ「人間」だ、少なくとも本当の魔女には違いなど存在しない。違いがあるのは人々の妄想の魔女だけだ。
 おぞましい力など何も持っていない。あるのは精霊との意思疎通をとれるという事だけ。しかしそれすら、訓練や修行を積めば誰にでも出来るのだ。
 だから、異端、と呼ばれなければいけないような違いなど何も在りはしないというのに。
『魔女は我等が神に仇を為す者である。「魔女」は魔術などといったおぞましい力を使い、世界を破滅へと導く。それ故に、「魔女」を殺すのは神から我等に与えられた使命である。神は我等を見ており、祝福なさるだろう』
 それはいつか聞いた処刑をしていた騎士の言葉だ。
 朗朗と、それが世界の真理だというように演説する騎士に、吐気と嫌悪と堪らない苛立ちを感じた。
(………人を殺してそれを祝福するだなんて、どんなカミサマだ)
 幾度思い出しても吐気がする。そうして、誤解が誤解を広げていくのだというのに。

「………ローズちゃん、風邪を引くといけないからそろそろ宿でも探そう?」
 躊躇いがちに声を掛けて来たファイに、視線を向ける。瞳が、心配そうに揺れていた。
 だけど自分は大丈夫だ。昔とは違う。これくらいの事で泣きはしない。
「……そうだな」
 しゃがんでいた態勢から立ち上がる。スカートの裾に付いた土を軽く叩いて、空へと視線を向けた。
 鉛色の空だった。美しい、とは程遠く、鈍よりと重い色の。
 ――世界はこんなにも汚い。そう思い知らされたようで、無意識の内に溜め息が溢れ落ちた。









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あきゅろす。
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