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売り言葉に買い言葉
「ありがとう。すごく、うれしい。」
朦朧とした意識の底。名前の声が聞こえてくる。重い瞼をこじ開ければ、自身のハンガーにかかった赤いネクタイ―この色はあまり好きになれない。派手だし、何より血の色みたいだから―、カーキーの特刑制服。小窓から射し込む些か強過ぎる陽射しに思わず顔をしかめた。
「でも、ごめんなさい…」
ベッドの中で小さくのび。枕のすぐ隣に置いた腕時計に目をやる。
午前6時42分。
3時間程眠りの世界へ旅立っていたらしい。仮眠なら充分。
「いや、こちらこそきいてくれてありがとう。」
欠伸を一つ。
そろそろ起きてやらないこともない。
2、3回程瞬きを繰り返す。と、真っ白なカーテンの隙間から、まだ私服の―恐らく特刑隊員の―男と名前がなにやら会話をしている様子が見えた。
またやってる……
いつまでもこの心地良いベッドに身を置くわけにはいかない。
小さな決意を胸にベッドから這い出す。
パタン と扉の閉まる音。どうやら、男は出て行ったようだ。
「おはよう。」
ビクッと震える小さな肩。そんなにびっくりしなくてもいいのに。
「上條さん?おはようございます。」
「うん。おはよう」
「仮眠…ですよね?でしたら、仮眠室へどうぞ、」
「仮眠室のベッド、硬いの。」
あ、ため息。ムカつく。
あの痛みを知らないのかな。
「怪我人がきたら困るでしょう?」
「この法務省内でどれだけの怪我ができるっていうのさ。」
ここは医務室。特刑専属のね。
でも、実際任務中に怪我をしたら法務省なんかに運ばず、即病院だ。ここに来る人は、法務省に戻る余裕があると判断された人、つまり軽傷の人しか来ない。
そんな状態だから、ベッドが全て埋まってる なんてこと有り得ない。
「…相変わらず、口の減らないこと!」
「名前こそ相変わらずでしょう?」
にこりと微笑んでみせる。
朝から何やってるんだか…。自分でも呆れちゃうけどね。
売り言葉に 買い言葉
言わずにはいられない。だって、ねぇ?
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