[携帯モード] [URL送信]

4000hit
見てない、視界に入るだけ

「ほんと相変わらず。さっきの男は?好きだって?」


 ふ と鼻で笑うもあっさりかわされる。そうよ なんて、
 赤いネクタイを手に取る。
首に掛け、目で訴える。結んで、


「優しく手当てする姿に一目惚れらしいわ。でも、当たり前でしょう?
仕事なんだから!」


 カタン と立ち上がりネクタイに手をかける。あ、腕時計。


「さっきは優しく断ってたくせに。
ありがとう、ごめんね なんて言ったら、諦めてくれないのわかってるんでしょ。確信犯は悪魔だよね。」


 ちらりと名前の様子を窺うけれど、さして興味もなさそうに器用に丁寧にネクタイを結ぶ名前。


「あら、上條さんこそ受付で一番可愛いって言われてる子、酷いフリ方したそうですね。」


 きゅっと一度引っ張り綺麗に形を整えてくれる。
制服を着るのはもう少し後でもいい。


「…それって何日前の子?」


 思い出せない。そんなのいたかな。


「一週間前のはず。まあ、覚えてないのも上條さんらしいけど。」

「………」


 寝起きの頭を総動員させる。


「あ!あれか。でも、え、酷くないよ。別に、普通。」

「なんて言ったんですか?」

『君、何課?名前も顔も知らないし、興味ない。なんで僕のこと知ってるの?』


「…受付嬢に何課も何も。」

「だって、知らない人だったから。」


 そこでふと思い出した。


「…第八の隊長も名前が好きらしいけど。」

「知ってます。気づかないわけないでしょ、あれじゃあ。」



「…猫被り。」

「上條さんに言われたくないんですけど。」

「なんで、こんなのがモテるのかな。」

「さぁ?見た目じゃないですか?」



 さらりと言ってのける名前。
知的なその横顔。緩やかに纏めても尚存在を主張する、流れるような長い長い漆黒の髪は優雅に風に揺れる。
透き通った肌はまるで白い薔薇の花びら。
ひとつひとつのパーツ全てが、



「人間顔じゃないと思うけど、」

「上條さんが言うと嫌みにしか聞こえませんよ。」



 くすくすと笑う名前。
唇は完璧な弧を描く。




その全ては人の目を奪う。




ぱちり と目が合う。



「見とれてました?」

「…ッそんなんじゃない!」


にこりと笑って首を傾げられる。





見てない、視界に入っただけ

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!