心の絆《04》 美しき銀山は、今はその影形すら無く、轟々と焼き尽くす炎に呑まれていた。 レイはただ無言で立ち尽くしていた。 彼の目に映ったあり得ない光景、惨劇とも呼べるそれは、あの冷静なレイを驚愕させるほどだったのだ。 山地中部には緑などなく、乾燥した枯れ木のみが密集して立ち並んでいる。 想定しなかったわけではない。 地力も衰え、精霊の加護を得ていないのだから当然の事だったのだ。 この銀山に、自然災害が起ころうなどと。 レイは哀しみに啼いた。 人間の言う山火事が荘厳な銀山を躊躇なく襲った。 火の粉は瞬く間に広がり銀山すべてを真っ赤な炎で包んだ。 『山が……故郷が……オレ達の源の銀鉱が……燃える』 神は我らを見捨てた。 拾う神もなかった。 世界は……何故こうも残酷なのだろうか。 レイは少しの間、意識を手放した。 この山火事により多くの銀が溶銀として下流に流れ、美しい銀山は原型を留められないほどに壊れた。 レイが再び目を覚ました時には、ただの焼け野原のみが広がっていた。 どこまでも、果てしなく。 『オレは、まだ生きているのか。それにしてもこれは……』 ――あまりに酷い。 かろうじて火の手から逃れたレイは、焼け跡で一人、双方の白蒼を見開いていた。 溶け出した銀はやがて冷え固まり人間の手に渡るのだろうか。 結局はこうなるのだ。 『オレの命もそう長くはないな』 彼はそれを自覚していた。 だから、だからせめて最後の力で何かを成せないだろうか。 そればかりを考えていた。 震える体を抑え、力を溜める。 最後の力を失えば当然自分は死ぬのだろう。 『死……か。ここまで汚れたオレは、二度と精霊に転生できんだろうな』 つまり、レイにとっては本物の死の訪れだった。 『この力で、人間の村を二つ分……いや、三つは殺れるか』 レイは口の端で笑った。笑える余裕などありはしないが、笑うしかなかった。 サヨウナラ……愛する仲間達よ。 サヨウナラ……愛する世界よ。 「――何をしている?」 寸前に、人間の声がした。 ←前へ|次へ→ [戻る] |