20話 港町リノア10
「この野郎! 騙しやがったな!?」
突然怒鳴り声が聞こえた。コウは声のした方に急いで向かう。そこには少し人だかりが出来ていて、真ん中で例の男が誰かと言い争いしていた。
「見つけた」
コウは人だかりの中を掻い潜る。野次馬を押しのけて、円の中央まで辿り着いた。その時には既に、泥棒男が倒れこんでいるだけで、言い争っていた人の姿は無い。泥棒男の知り合いだったのだろうか。なにか揉めていたみたいだが。
「ちょっと、あんた」
「あぁ!? 今の俺は苛立ってんだよ!邪魔すん……」
泥棒男はこちらを見るなり、青ざめた顔をした。それは、コウの顔が恐ろしく見えたからだろう。コウは相当怒っていた。籠なんかどうでもいい。ただ、あの中にはルーンがいるのだから。
「私の籠を返せ!」
「けっ! イヤだね」
「返さないと言うなら……」
コウはスッとセーレン・ハイルを出す。布に巻かれているので、相手はそれが何か判っていない様だが。だが、布からちらりと鞘が見えた時、泥棒男も身の危険を感じたのだろう。「ひゃぁ!」と慌ててその場から逃げる。
「逃がすか!」
コウは泥棒男を追いかける。だが、見えた勝負だ。泥棒男は路地裏に入り隠れ場所を探すが、その前にコウに追いつかれてしまった。挙動不審な行動をとる男に、一振り。
「ひぃ! やめてくれっ! 斬らないでくれぇ!」
「……籠を返せ」
「わっ……判ったよ……ほらっ!」
男は手に持っていた籠を放る。コウは剣先を下ろし、籠を受け取った。ほっと一息つく。
「ルーンごめんね、驚いたでしょ」
そう呼びかけながら籠を開ける。蓋を捲れば黄色の小鳥が目を回して驚いているだろう……という私の予想は外れた。そこには何もなく、ただ白い下地が乱れていた。と、いう事は。
「この泥棒野郎、中の者はどうした」
コウはかなり口が悪くなっている。だが今はそんな事を気にしている場合ではない。気付かれた? 中に精霊が居たことを。
「へへへ、もう遅いぜ」
「どういう意味だ。返しなさい!」
剣を目の前に突き刺すが、泥棒男は動じない。余裕がある。嫌な予感がする……。
「俺は持ってない」
「……どこにやった」
「売ったさ」
やはり、そういうことか。どいつもこいつも腐ってる!
「どこの誰に!?」
「さぁなぁ、教えてやってもいいけど」
「いいから答えろ!!」
頭に血が上って、怒鳴り続けていた。その所為か、少し頭痛がする。極めつけは、
「海賊だ」
男の言葉に、絶句した。
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