20話 港町リノア09
もうフレアン達の姿は見えない。どの辺にいるかはだいたい判るけど。あまりに人が多すぎて、向かいの店だってよく見えない状況だ。この人の波に呑まれないようにだけはしないと。
ドンッ
「っ!?」
「悪ぃな姉ちゃん!」
後方から誰かがぶつかってきた。その人物は適当に謝ると、すぐに走り去った。痛む肩を擦りながら、男の方を睨む。
「いったぁ……本当にもう! ちゃんと前見て走りなさいよ。ねぇ、ルーン」
同意を求めるが、返答が無い。
「……ルーン?」
足元に置いていた籠の方をみやる。そこで、重大な事実に気付いた。
籠が、無い。
「――あっ……の……泥棒!」
直に確信できた。さっきぶつかった男、あいつが盗んだんだ! もう姿は確認できない。でも今なら追いつけるかもしれない。ううん、絶っ対追いついてみせる!!
「待ちなさい! 泥棒!」
コウは走った。入り込む人々の中を。邪念に邪魔されてルーンの気配が薄い。この人の数なら仕方ないが。
「っ……逃げ切れると思うな!」
コウはルーンの気配を辿りながら、必死で走り続けた。相手は泥棒と言っても、ただの人。風の守護を受けたコウの速さから逃げ切れるわけがない。
ただ、ここは港町。船で逃げられでもしたら、手のうち様がない。
「――!?」
コウは足を止める。何か急に、ルーンの気配が判らなくなった。いや、途切れたと言った方が正しい。
「嘘……何で……」
コウはそのまま立ち尽くす。今までちゃんと判ったのに、急に気配が欠片も無くなった。もしかして、ルーンの身に何か……?
「何だと!? 話が違う!」
一人絶望の淵にいると、遠くから叫び声が聞こえてきた。汚い男の声。間違いない。
「あの泥棒……!」
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