闇の輝星《04》 「お兄さまっ見てください! とってもきれいっ」 「はいはい、あんまりはしゃぐとこけるぞー」 「だいじょうぶですーっ」 見たことも無い美しい庭園で、マリアは両手を広げて走り回っていた。 その様子を見つめるアモンの表情はとても穏やかだった。 そうやって半時ほど経つと、マリアも動くのを止め、今度は花段で花冠を作り始めた。 小さな妖精の様なマリアを見ていたアモンだったが、不意に何かが視界に入った。 アモンの目に映ったそれは、銀の装飾。 いや、違う。それは飾りではなく、本物だ。 銀の糸を斜めに束ね、端正な顔立ちをする少年は、艶やかな花園とは不釣合いの黒服を着ていた。 アモンは無意識に開いた口を閉じ、銀の少年に向き直る。 彼もまた、アモンをじっと見ていた。 この花園に、自分と兄以外の誰かが居ることに気付いたマリアは、さっと立ち上がって周囲を見回した。 「あっ!」 こぼれそうな赤瞳が捉えたのは、花の精かと見間違うほど美しく、透き通る程の銀髪を風に揺らしていた。 自分と歳が近く、銀の髪を持った、少年。 「リセイさま、ですか?」 マリアは何かの衝動に駆られたように、言葉にした。 しかしいきなり名を当てられて、銀の少年は少し戸惑っていた。 それを見たアモンが、少年に近寄る。 「久しぶり、リセイ」 「……久しぶり」 リセイの視線は一度アモンに向けられたが、彼は花園で立ち尽くす少女を一瞥した。 「ああ、あの子は僕の妹だよ。マリア、おいで」 「妹……?」 兄に呼ばれ、マリアはすぐに走り寄っていった。 息を切らしながら兄の裾を掴み、ぱっと明るい笑顔を見せた。 「ほら、この子がさっき言ってた子。リセイだよ」 「あなたが、リセイさま」 マリアの大きな瞳に吸い込まれそうになり、リセイは視線を反らした。 自分も子供だが、マリアくらいの幼い子供の視線は妙に痛く感じた。 心まで射抜かれる、とはこのことかもしれない。 突然現れた少女に、リセイは戸惑うばかりだった。 だが、マリアは少しも気にせずリセイに話しかけた。 「お兄さまのお友達ですか?」 「友達……?」 「……違うのですか?」 マリアは率直だった。そしてその素直さは、リセイにとって大変珍しいものだった。 彼女と暮らしているアモンは慣れていたが、それでもたまにその素直さに負けてしまうことがある。特にリセイは人付き合いも薄く、こうまではっきり発言する者と話したことはなかった。アモンはどちらかといえばやんわり言う方だったが──。 「友達……なのだろうか」 「だったら私ともお友達になれますねっ」 「──えっ」 いきなり申し込まれ、「え」以外の言葉が出てこなかった。 「あはは、マリアはすぐ友達つくりたがるからなあ」 「だって……」 マリアはぷくっと頬を膨らませた。 なんて屈託の無い子なんだろう──。 この時リセイはその様に感じたそうだ。 ←前へ|次へ→ [戻る] |