心の絆《05》 今、一番聞きたくなかった。 最も憎い“人間”の声など。 レイは気が反れて溜めた力を元に戻してしまった。 「お前、もしかして精霊の生き残りか?」 『……』 レイにそう話しかけてきたのは、その言葉遣いから想像したものより幾分も幼かった。 長い髪は雑に後ろに束ねられており、髪が痛そうだ。 だが顔立ちは驚くほど整っていた。 金色の髪をもつ、この惨状にも劣らない強き瞳で真っ直ぐ精霊を見つめる少年。 彼はレイの前に立った。 「お前、死ぬのか……?」 『汚れすぎた。輪廻は望めん』 レイも冷静に答えた。 まさか「死ぬのか」と聞かれるとは思っていなかったが、その素直さには僅かに好感を持つ。 少年は目の前で生きる気力を無くした精霊に優しく微笑んだ。 その表情は何ともいえない衝動をレイに与え、何より汚れなく、美しかった。 少年は言った。 「お前は自分が汚れたと言ったが、俺はお前を美しいと感じるが」 『……な?』 「お前は死にたいのか?」 少年の瞳は濡れていた。 たった今ではなく、もうだいぶ時間が経っているようにも見えた。 きっとこの焼け跡を目の当たりにし、涙を流したのだろう。 きっと心の清らかな少年なのだ。 まだ穢れを知らない、無垢な人間なのだろう。 『生きるくらいなら死んだ方がましだ』 レイの返答に疑問を持ったのか、少年は首を傾げて問うた。 「お前は死を選べるのか」 馬鹿な事を聞くなとレイは思っただろう。 「当然だ」 「それなら今は生きろ。お前が自分の死を選べると言うのなら生きる事も出来る筈だ。お前が例え、最後の一人であっても」 少年は強く言い放った。 その眼差しが不思議と心地よかった。 レイは、知らずの内に心を奪われていた。 ←前へ|次へ→ [戻る] |