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42話:07 秘密


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その瞬間、真っ直ぐな眼差しがコウの全身を射抜いた。

先ほどまでリセイと共に居たコウは、再び部屋を出て行かなければならなくなった彼に不安げな目を向けた。

リセイはふっと小さく笑い、「心配いらないから」と耳元で囁くと、最後に“部屋から一歩も出るな”と言い残してコウの前から去った。

問題は山積みらしい。
ここ数年主導者が不在であった帝国は予想以上に荒れていたようだ。
ようやく皇帝が姿を現し、力の有る皇族のリセイが戻ってきたのだ。彼らに託された問題はとても一回の会議では処理しきれないものだった。

再び議会へ向かったリセイを思うとコウは胸の奥が軋むのを感じた。
心配と不安。

抑えきれない負の感情を持て余しているところ、騒々しく部屋の扉が開いた。

そして、金色の美しい瞳に囚われてしまった、という訳だ。

「サラ……?」

「……」

「あ、昨日ぶりだね。体の調子はどう? そんなに動いちゃって、痛んだりしない?」

サラは無言で返してきた。

「サラ?」

言ったと同時に、視界が明るい金色に染まっていた。微かに香る花の香は彼女が愛用している香水だろう。

サラはぎゅうっとコウを抱き締めると、首筋に顔を埋めてまた更に抱く腕を強めた。

「サラ……、もう大丈夫なの?」

帝王に何をされたのか、あの時はコウの位置から確認することは出来なかった。痣などなければ良いが。

「大丈夫よ。気を送られて気絶してしまっただけ……」

少し笑ってみせてくれたが、また眉を顰めて強く唇を噛んだ。

「……悔しいわ。あんな男に負けるなんて。つい数日前まで床に伏せていたくせに。あの変わり様、人間ではないのよ」

「そんなことないよ……。サラが勇ましくて助かったよ、私も頑張れたから」

サラを宥めるようにやんわりと返した。

出来ることならこのままずっとこうしていたい。サラはそう願う心をひたすら押し隠し、体を離して真っ直ぐコウを見た。

彼女には言わなければならないことがあった。どうしても、例えコウに不信な目を向けられようと、伝えるべきことがあったのである。

サラは意を決した様に口を開いた。

「私たちは無謀にもフィルメントの皇帝に牙を向いたわ。極刑を免れたのは神軍長のおかげだけど……それ以上に、精霊を利用して復讐を遂げようとしたの」

「そんなこと……」

「聞いて、コウ。私たちが隠している精霊の秘密……それはね、魔剣セーレンハイルに纏わる真の伝承なの」

それを聞かされた時、彼女自身も動揺したのだろうか。

サラは会話を断ち切り深く息を吸い込んだ。

「精霊の神は人間の味方ではないわ」

コウの瞳が大きく揺れた。返す言葉が思いつかず、このまま話の続きを待つしかなかった。

「可笑しな話よね。だって、風神や樹神はずっと貴女の傍に居て、守ってきたんだもの。私だってお兄様から聞かされた時は信じられなかった……。神々は貴女の守護者だって思ってたんだもの。だけどそれが、本当は違っていたとしたら? 精霊の神たちが守っているものが別にあるとしたら……」

「まっ、待ってよサラ。何のことを言ってるの?」

「魔剣セーレンハイル、あれは古の神の一部なのよ」

サラは部屋の端に置かれた魔剣を睨み付けた。布の中で多色に光るセーレンハイルが、今は怪しい鉛色を全体に纏っているように見えてしまった。

「精霊の一部ってこと? それじゃ、セーレンハイルは」

「要素は銀。固有名をアルジェントという、古の銀神から造り出された魔剣だったの。製造者は恐らく……古い力を持った精霊よ」

「……精霊が?」

「そう。人間には不可能な技術が施されているから間違いないわ。それに、ある程度力のある者じゃないと古の精霊は扱えない。リュートニアの歴代当主たちが長い間研究を重ねて、その遺産を継いだお兄様がようやく真実に辿り着くことが出来たの」

それがもう少し早ければ貴女に無理をさせずにすんだのに、とサラは哀しげに呟いた。

「無理って……私は別になんともないよ」

「何を言っているの。お兄様やダイスから聞いたわ。貴女、魔剣を使用する度に精神力を消耗してぶっ倒れていたそうじゃない」

「それはセーレンハイルが強い力を持つから、弱い私の方が引きずられちゃって……」

「違うわ。あの魔剣はそうするように造られていたのよ。加えて言うなら、そういう状況に持っていったのが古の精霊なの」



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あきゅろす。
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