修行11
「あの方は相変わらず多忙だな」
傍にいたクリスがドアの方を見ながらそう言った。
「そうだな……リセイは先読みが上手い男だから常に物事の先を行ってるのさ」
「そういうのはお前の方が得意ではないのか?」
「あはは、俺のはセコイってヤツ、裏技的なもんだよ」
呆れたようにため息を吐くクリス。アモンはへらへら笑ってお茶の続きを楽しんでいた。だがふと、ある疑問に気付く。
「アモンお前、今日は仕事に追われていなのか?」
「んん〜? 今日は大丈夫。絶対取り次ぐなって言ってあるから」
「おい……いいのか? それ」
いつもの事だが、この男は公務に対して真剣さが足りない様に思う。それはきっとクリスだけではないだろう。いつだって司祭達に追われてるし、仕事は真面目にやろうとしないし……
――何でこんなヤツが教皇……
そう思いながら見つめていると、不意に目が合った。しかも、何故かアモンは嬉しそうに笑いかけてきた。クリスは気恥ずかしくなって目を反らす。
「何クリスちゃん、俺に見惚れてた?」
「はぁ? ふざけるのもいい加減にしろ。だいたい本当は今日の公務も終わってないんだろ、さっさと本部に戻れ」
「冷たいなぁ、ちゃんとやったってば」
アモンは冷や汗たらしながら必死に弁解する。クリスは当然「どうだか」と軽くあしらった。
クリスが部屋を出ようとした時、アモンの声に一瞬立ち止まる。
「クリスちゃん今日は仕事お休みでしょ? そんな慌てて出て行かなくてもいいじゃんか、少しくらいお茶に付き合ってよ」
――軟派な奴。クリスはそう思ったが、それより彼の発言にひかかった。
「何故私のスケジュールを知っている……」
「何故なんて、その質問俺には愚問でしょ」
「……ああそうか。お前が人のプライベートにも首を突っ込むような変態だったとは知らなかった。じゃ」
足早に部屋を出て行くクリス。一人部屋に残されたアモンは、紅茶をすすりながら一点を見つめていた。
やがて部屋に入ってきたダイスが、その様子に気づく。
「アモン様、どうかされたのですか?」
「んん〜? いや……難しいものだなぁと思って」
「……は? 何のことでしょうか」
そう聞き返したが、その返事が返ってくることはなかった。アモンは紅茶の礼を言うと、直ぐに部屋から出て行ってしまった。
彼の不可解な落ち込みように疑問をもったダイスなのであった。
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