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仲間12


 左腕から静かに流れているのは色鮮やかな赤い血。それはやがて肩まで伝い、地面にポタリと落ちた。

「痛い……」

 目一杯の苛立ちを込めてそう吐いた。
 獣の二回目の攻撃を避けずにそのまま左腕で受け止めた私は、鋭い爪が腕に食い込む様子を見ただけで気を失いそうだった。

 私の血を見て興奮した灰黒の獣は強引に腕の肉を抉り、快さそうに唸る。荒々しい息に吐き気がした。

 こんな馬鹿なことはなるべくやりたくなかったが、これが一番手っ取り早い。
 私の体は熱く燃える様で、相手の鼓動も生々しく聞こえてきた。
 そう、これで。

「貴方達が幻影じゃなく本物だっていう確信が持てたわ」

 セーレン・ハイルに力を込めると剣先から冷たい風が流れ、それは獣の体に纏わり付いた。

 獣は少し動揺したが興奮していて実際はそれどころでは無い様だ。
 柔らかい女の肉を食べてしまいたいという欲望が奴の全てを支配しているのだろう。

「悪いけど、もう用は無いよ」

 私が怪しく笑うと、灰黒の獣は背筋に走った悪寒に身震いした。
 その隙を見て、剣で大爪を力強く払うと、その衝撃により獣の体制は瞬く間に崩れ落ちた。

「さて、終わりにしようか」

 私の目は獣達を睨んだまま放さない。他の四匹もどう手出しすれば良いか分からず固まっていた。

 先ほどまであんなに隙だらけだった人間が、周囲の大気を細かく振動させているのに気付き、獣達は一斉に間合いを取った。
 傍にいる獣は誰よりその恐怖を感じていたに違いない。

「──ごめんね」

 小さな謝罪が滑り落ちた。呟く様に、小さく、小さく響く。

 再びセーレン・ハイルが猛威を奮うと、獣は悲鳴を挙げる間も無く消滅した。さらさらと、砂の様に跡形も無く消えてしまった。

 確かにそこには生き物がいたのに、彼らの死は何も残さなかった。
 精霊は肉体を持たず、死んでも形が残らないのは分かるが。

 ──なんて曖昧な存在なのだろう。それでも彼ら無しでは世界は生きられない。

 目には見えない触れられないもの達が、この永久的な世界を造り上げたのだ。
 大地や海、樹や風、火や水を造り出し、新たに貴重な産物を生み世界を潤してきた精霊達は、それらを消費し破壊する人間をどう思うのだろうか。

 彼らに憎まれたとしても、なんら不思議なことではないと思った。



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あきゅろす。
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