仲間10 「コウさん、どうかしましたか?」 リナの声に気付き、コウはぱっと顔を上げた。 ケインでさえ心配そうにしている。 リナはもう一度尋ねようとしたが、それに被せるように言葉を吐いた。 「大丈夫、ちょっと考え事してただけだから」 「それなら……いいのですが」 リナは一応納得したがケインはそうでなく、こちらに近づき顔を覗いた。 思わず避けてしまい、それが余計に怪しまれた。 ケインの凝視に必死で耐えていると、彼はようやく諦めてくれたのか体を離した。 「試験まで一週間、最後まで頑張ろうね」 「ええ、勿論!」 リナが賛同し、続いてケインも大きく頷いた。 「それじゃあ、またね」 コウは片方の手をひらひらと振りながらその場を離れ、足はそのまま機関の奥へと向いていた。 残されたケインとリナはお互い見合い、微妙な雰囲気が漂っていた。 「あいつ、あれで隠してるつもりか? 無理してるのバレバレだぜ」 「ですわね……」 リナの返答が予想外だったのか、ケインは目を丸くしてこの小さな少女を見た。 彼女は柔らかい髪を触りながら微笑み、散る木葉を目で追った。 「だけど私、頑張っているコウさんが大好きだわ」 そうやって風に揺られて遊ぶリナが天女のように見えて、ケインは目をごしごしと擦った。 ***** 昼間はとくに活動的な軍事機関は殺気立った訓練生であふれ返り、時々すれ違う体格の良い男にぶつかったりして、コウは必死で頭を下げたことがあった。 今もまた混み合った廊下を掻い潜り、やっとの思いで自室に着くと、休むことなく訓練室へ駆け込んだ。 コウは訓練室の扉の前に立った。ほど好い緊張感と先が見えない不安。 この感覚はしばらくぶりだ。 ……あの時から扉は硬く閉じられたままで、コウは一度も訓練を受けることはなかった。 だが、今はどうしても確かめたい。 訓練室に出てくるのが精霊本体ではなくただの幻影なら、あの時の生温い血や傷痕は何だったのかということを。 自分に向かってきた精霊たちの一挙一動を何度も思い返す。 彼らは幻影とは違う、明らかに違う。 だからこそ、もう一度確かめたかった。 訓練室の扉を開けると少し肌寒い風が吹いた。 ゆっくり中に入り、最初と同じように流れる機械音に耳を傾けながら、剣の訓練ボタンを押した。 この感覚、前にも経験がある。体が覚えているのだ。 奥の方で待ち構えている奴ら。その内の何匹かがこちらに来る。 コウはセーレン・ハイルを握り締めて獣達の方を向いた。 獣は禍々しい空気を漂わせていてとても直視出来ない。 だが、これでも随分ましに思えた。きっと今までに何度となく闇の獣を斬ったからだろう。 「こんなこと……慣れたくなんてないのに」 不意に零れた言葉を聞かなかったことにして、コウは正面を見据えた。 不思議と恐怖感は無なかった。 ←前へ|次へ→ [戻る] |