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9話 消せない過去


 リセイはコウを見つめていた。その表情の一つ一つを。
 今にも泣き出しそうな瞳は、握り締めた拳を睨む。決して視線を放すことなく、凝視している。唇をきゅっとかみ締め、やや幼い面影を残す表情に、激しい憤りを見せていた。
 それは……コウが自分自身をひどく責めているだろう事が伺えた。
 リセイは胸が苦しくなる。彼女は何も悪くない。悪いのは、彼女の力を欲する人間だ。

「(……カルディアロスの言うとおりだな)」

 コウを心配そうに見ているカルロに目をやる。
 カルロも視線に気付き、少しこちらを向いたが、すぐにコウの方に向きなおった。
 彼女を守るにはどうすればいい? 帝国へ連れて行きこちらで完全に保護すれば、確かに何者にも触れさせることはないだろう。
 だが……なるべくは、連れて行きたくない。
 無盾しているようだが、切実だ。

 なぜなら今の帝国は、いつ東国との戦争が始まってもおかしくない所まで来ているから。
 そんな危険な国に、この娘を連れて行くことはできない。

 それに戦争となれば、コウの力を当てにする者も増える。
 コウ自身も危うくなるし、力の加減が判っていない彼女に、まだ精霊を癒すのは無理だ。

「フレアン殿?」

 ダイスの声に気付いたリセイは、内心ひどく驚いたが、それを表に出すことなく「なんでもない」とだけ返した。様子がおかしいと感じたダイスだったが、リセイが大丈夫だと言うので何も言わなかった。
 下を向いていたコウも、ダイスの言葉に気付き、リセイの方に目をやる。

「フレアンさん、どうかしました?」

「え……?」

「あの……なんかさっきと違って深酷な顔してたから」

「ああ……そうか……」

 リセイはコウに優しく微笑む。少し切なさを浮かべて。

「(やはり今はまだ連れて行けない……)」

 リセイはやっと結論を出した。まだ曖昧さは残るが。だが、これが一番いい方法だ。リセイはそう信じていた。



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あきゅろす。
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