聖域と罠13
「さて、久しぶりだな。クリス・リーチェル」
ルクードの護衛の一人、武士の格好をした長身の男が声を放つ。知ったような口ぶりをする相手に、クリスは昔を思い出した。
「……貴様は」
「俺を忘れたか? 動乱で俺の腕を切り捨てたお前が」
「いや、忘れるはずが無い……」
クリスは相当苦しそうな表情をしている。コウは心配になったが、視界を遮るように出てきた軽めの男に気を取られた。
「じゃあ俺はこっちの貧弱そうな剣士と遊びますか」
「……」
コウは無言で男を見る。その恐れることの無い目を見て、相手は機嫌が悪くなった。
「随分身の程知らずじゃ無いかぁ? お前」
「………」
「ああ、俺が恐くて一歩も動けないってヤツか! うけるぜぇ!」
軽い男は高らかに笑う。クリスはちらりとコウの方を見た。そして、軽い男と武士に向かって言い放つ。
「お前ら二人共私一人で十分だ! かかってこい、犬共!」
「何……?」
「……へぇぇー」
クリスの挑発に見事に乗った男二人は、同時にクリスを睨んだ。そして、コウの方を向いていた軽目の男は、クリスの方に視線を動かした。男二人は、互いに見あい、にやりと笑う。そして、一斉にクリスに向かっていった。
「死ねや! 姉ちゃんよぉ!」
「クリス・リーチェル! 覚悟!」
クリスは向かってくる男2人に対して構える。
確かにクリスは強い。
だがあくまで司祭。武器も鉄拳のみだ。
どう考えても、不利は目に見えている。それでもクリスは迎え撃とうとしている彼女は、コウを護りたい一心であった。
精霊の王であるコウを守るために。
「私って、つくづく役立たずなのね」
コウの呟きは誰にも聞こえることはなかった。信用されていない。大切に扱われるのは嫌ではないけれど、これではまるで私は子供だ。一対一の対戦すらさせてもらえないなんて……
確かに私は強くない。それでも護りたいと思うのは私だって同じだ。
コウはぎゅっとセーレン・ハイルを握り締めた。
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