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古の精霊11


 静かに放たれた声は、微かに震えていた。
 ナティアはぎゅっと私の腕をつかんでいる。

 やがて茂みの中から人影が見えた。長身の、長い赤髪を粗末に下ろし、漆黒の服を着た、見知らぬ男。



 コウは息を呑んだ。男の背後には何かがいる。そんな気配がする。それが人間なのか動物なのかは判らないが。

 一先ず意識の無いカルロをナティアに預け、殺気立つ男を向いて立ち上がる。男は口の端で笑みを浮かべていた。

「見た事が無いな。お前、誰なんだ? 何の目的でこの森に来た」

 今の私は軍事機関の制服ではなく簡易な戦士服を着ている。お互いに怪しい者同士だが、取りあえず先手を打ってみた。
 だがその男は大して動揺もなく話を進めていく。

「威勢が良いな。さすが姫の護衛、といった所か」

「俺が、護衛だと?」

「はっ、とぼけても無駄だ。封鎖されたこの森に来る理由など一つしかないだろう。なぁ? 精霊王アムリア」

 私は息を呑んだ。

「アムリアの事を、何処で……」

「くくく、あれ程世界を騒がせてきた精霊王を知っていてもおかしくはあるまい。まぁ、この場所を探り当てるのにそれなりの方法を用いはしたがな」

 何を知らなくても、この男が危険だということは直感で理解できた。

「ねぇ、アムリアって……精霊王って、何のこと?」

 込み入った事情を知る由も無いナティアは、この重苦しい空気に震えていた。
 深紅の男は優しく且つ蛇のような目を向けて答えた。

「なるほど、君はまだ知らないのか。帝国の手が回っているかとも思っていたが、フィルメントも落ちたものだな。そうだな、アムリアとは全精霊を支配する精霊の王の通称。まぁ、つまり君の事だ」

 男が指差したのは私ではなく、隣のナティアだった。彼女は暫く呆然としていたが、漸く自分の事を言っているのだと理解したようだ。

「私が精霊の王……? 本当? 私、王族なの?」

 ナティアはすっかり男の話に聞き入ってしまっている。何やらアムリアについて教えている様だが、正直今の私には逃げる裁断を考えることしか頭になかった。

 この男が何を勘違いしているかは知らないが、つまり彼らもアムリアや精霊の事に関しては詳しくない。
 今の内に、どうにかしてナティアとこの森を出なければ。



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あきゅろす。
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