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古の精霊02

 朝食を済ませた後、ティレニア本館にある図書館へ向かった。
 大きな扉を開けると、何千、何万冊という本がびっしり並んでいた。
 どこから見たらいいのか分からなかったが、取り敢えず適当な本棚を見回った。

 『歴史』『文化』『戦略』『政治』『精霊』

「あ、あった」

 運がいい事に、何十列もある本棚の中から精霊に関する列を見つけることが出来た。
 端から順に帯を見ていく。だがそこにある本は、どれもこれも『精霊との契約』についてばかりだった。

 コウは精霊と契約する力を持たない。以前会った教皇という男をどこまで信用するかは別として。
 兎に角何の適性も無いと判断された私が、そんな本を読んでも当然意味はなかった。

 諦め半ばでしゃがみこみ、一番右下の棚にあった本に目をやる。
 それは他の分厚い本とは違い、細くて小さな雑誌の様な本だ。
 周りのでかさに圧倒され、後ろのほうに埋もれている。
 少し気になり、コウはその本に手を伸ばす。

「……古の神?」

 本の題名を読み上げたが、何の事かは全く分かっていなかった。
 興味を持ったので近くの椅子に座り、1項ずつ丁寧に読んでいく。
 初めの方は未知の領域だったが、次第に内容が判ってきた。

 つまり古の神というのは……

「何万年も前にいた精霊のこと、ね」

 そして古の神は一つではない。地、水、火など様々な自然要素に存在する。
 その力は絶大で、人には扱えぬものらしい。
 しかし余りに自分とかけ離れているからか、それ以上ね興味を持たなかった。
 そしてまた項をめくる。

 そこには地図の様なものがあった。
 中央に円が一つ、円の両隣に逆三角が一つずつ、円の下には三日月に似た記号が描かれてある。

「何なんだろ」

 この特殊な配置、どこかで見たことある……と、コウは三日月の中に書かれてある絵文字に目をやった。

「えーと……黒い獣……って確か」

 リストの森にいた、あの獣だ。
 そうか、この絵地図は世界地図を表してるんだ。
 そして三日月の部分が、ティレニア軍事機関がある大陸を示しているのだ。

「もしかして、この円が帝国?」

 この知識は勿論既知のものではなく、数日前に機関事務員であるクリスから世界情勢を教えられた時のものだ。
 確かその時も世界地図を見せてもらった。
 こんな簡略化したものでなく、リアルな地図だ。1uくらいの大きさだった。

「帝国はティレニア軍事機関と親密な関係があるって言ってたな」

「その通り、よく勉強してるじゃないですか」

 独り言のつもりで言った言葉に思いがけず返事が返り、即座に振り返る。
 そこに立っていたのは、白い司祭服に身を包んだ緋髪の女性だった。

「クリスさん、お久しぶりです」

「関心ですね、自ら進んで書物を読むとは」

「いえ、そんな……まだまだですから」

 通常これを謙遜と捉えられる人は多いが、クリスはただ静かに笑みを浮かべた。
 だがそれは、非常に優しい顔だった。

「いいえ、何事も出来るかどうかでなく、やる気の問題です。私にお役に立てることはありますか?」

 彼女は私を見かけるたびに話しかけ、色々と気遣ってくれる。
 ここでの味方が少ないので、彼女にはかなりの信用を置いていた。



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