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古の精霊03


「じゃあ一つ……古の精霊についてなんですけど」

「古の精霊? それをどこで聞いたんですか?」

「え……? これですけど」

 手元の雑誌を見せると、クリスはもの凄く驚いたような顔をした。

「な! 何故これが……!」

「その辺の本棚に埋もれてましたよ」

「そんなはずは! 古の神についての書物は全て消したはず……」

「……消した?」

 彼女の放った言葉があまりいいものではなかったので、私は訝しげに聞き返した。
 そんなコウを見てクリスは少し躊躇うような仕草を見せたが、やがて何かを紡ぎはじめた。

「……古の神は、遥か昔に封印されました。その強大な力を隠すために」

「隠すって、人間からってことですか?」

「はい。人はどの時代においても災いを招く存在でした。悲劇は二度繰り返してはならない。古の精霊達は自分達を示す全ての書物や伝承を消滅し、自然の奥深くに潜んでいるのです」

 伝承を隠す。その事に僅かな違和感を持つ。
 もしそれが本当なら、あなたは何故……

「クリスさんは何故古の神についてそんなに詳しいの?」

 コウの指摘にクリスははっとした。しかし最早言い逃れは出来ない。
 クリスは苦い顔をして、質問に答えた。

「私が知っている事は精霊から聞いたものです。彼は古の神について詳しいので」

「そうですか。精霊から……」

 伝承を隠すと言っておきながら、精霊達は人間に話している。それは例え信頼のおける相手であっても、してはならない事。
 本当に隠したいなら人間界に『古の神』という言葉を漏らさないようにしなければならない。

 それとも、隠すための伝承……か?
 コウが難しい顔で考え込んでいたので、クリスも宥める様に話しかける。

「精霊達にとって、忘れられない日がある。それが何か関係している様にも思います。アムリアである貴女なら彼らから昔の事を聞けるかもしれませんね」

「そう……かな……」

 クリスの考えとは裏腹に、私はあまり乗り気ではなかった。
 その人が他人に知られたくない過去を、こちらから無理に聞こうとは思わない。そういう事は好かなかった。
 気にはなるが、今は……

「それでは、私はこれで失礼しますね、コウさん。それから、その本は他人の手に渡るべきではありません……。あなたが持っておいてくださいませんか?」

「はい、分かりました。話を聞いてもらってありがとうございました」

 「お役に立てたなら良かったです」と少し笑って言い、クリスは図書室を後にした。

 私はしばらく扉の方を見ていたが、また視線を本へと戻した。


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