〜龍と刀〜
決行の時
マントを翻し、背後に従えた異形たちへ一言。
「今までに教えた事を、存分に発揮してください」
意味を理解したのかしていないのかは分からないが、異形の化け物たちは声を揃えて叫ぶ。ビリビリと空気を振るわせながら。
「アスラ様、我々も微力ながら手伝わせていただきますよ」
「ほぼ全員が出陣と言っても……力がある者たちはそこそこ残している。つまり雑魚共に前線を任せる……それより強いのが指揮を執った方がいいだろ?」
その中でも違う雰囲気を纏った二人。
一人は、オレンジ色の鮮やかな軽鎧−−最低限の防御範囲しか無い鎧−−に身を包み、右手に槍、左手に謎の旗を掲げた者。何故かは分からないが、シルクハットを深々と被っている。
もう一人は、それこそ異形。顔は百獣の王ライオンで、体は人だが、腕が異様に太い。そして何より、別の化け物に乗っている。一人、とは到底数えられないような姿をしていた。
「アリゴールにキュルサム……貴方たちも?」
「はい。相手側に乗り込むなら、やはりこの力が必要だと思いましてね」
シルクハットの下、見える口元を歪ませる。
そして左手に携えた旗を一振り。輝きと共に、その場に居た化け物たちの数が急激に増えた。
「なるほど……」
腕を組み、思案する素振りを見せる。
「こんな能力だけじゃ押し切られるのも時間の問題だ……つまり、ここは力の強い者の出番という訳だ。言わば付き添いだな」
「またまたそんな事言っちゃって。キュルサム氏は一番の親友の身が心配なだけでしょう?」
「誰が誰の親友だ。貴様なぞ、ただの飲み友達だ……つまり!俺が貴様を心配する理由など存在しない」
ライオンの鋭い目を細め、アリゴールを睨むキュルサム。そこにはやはり百獣の王の威厳が残っている気がする。
「分かりました。アリゴールには突入部隊の副隊長を、キュルサムには同じく突入部隊の隊長を勤めていただきましょう」
「了解した……つまり指揮権は俺に委ねられる、と?」
「もちろんです。突入部隊の指揮権、全てをキュルサムに。同志たちの使い方も貴方次第……そして、勝敗も」
適材適所。キュルサムのような強い存在には、こういった役職を与えた方が良いのだ。
「アリゴールも。よろしくお願いしますよ」
「承知しましたアスラ様。このアリゴール、職務を全うしてみせます」
そしてアリゴールのように命令に忠実、かつ、特殊な能力を持つ者には補佐役を。
これが永年で培ってきたアスラのやり方。
「それでは再び言わせていただきます……我々は、各々が夢を持ち活動して来ました。そして、それが叶う時が来ようとしているのです」
闇の壁に手をかざす。
空間が切られるように、明るい街並みが目に飛び込む。
「そのためにも、討たれずに頑張ってほしいのです。全ての夢を叶えるために……」
夢を叶える、そのために化け物たちは一歩を踏み出した。
奥底に眠る、獣の本能に頼って。
「さあ、始めましょう」
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