〜龍と刀〜
漏れた事実
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辺りを支配するのは漆黒の闇。そして所狭しと並ぶ無数の瞳。
「私の失態です……」
そしてその中央、片膝を付くのは全身を漆黒の鎧で包んだアスラ。
破壊された鎧は完全に修復され、元通りとなっている。
「いえ、これはアスラのせいとも一概には言い切れないの。同じ場所に送り込んだのも間違いだったのかもしれない……違うわ。間違いだった」
赤いロングドレスがふわりと揺れた。それに釣られて長い髪も流れる。
「非はどちらかと言えば私にあるのよ。だからアスラは心配しなくてもいい。それに、あの三体には個人的な用事も頼んでおいたから」
「個人的な用事、ですか」
「ええ。言ったでしょう?私は自分の手でこの体を治したいと」
そう。彼女の体は治る事の無い病に冒されているのだ。そのために、何かをしているらしい−−アスラにも詳しい内容は知らされていない−−。
「そのために必要だったのよ。これらの事を含めてアスラは悪くない」
「しかし、あの者たちを育てたのは私ですし」
「仮にアスラのせいだとしても、咎めないわ。何せやり方が今までのとは全く違うのだから」
手法を変え、小規模な行動で抑えていた物を一転させた。場所を選ばず、目的遂行のために前進する。それが今の『永遠の闇』のやり方。
「戦いにおいて非情さは大事、と教えたのはアスラでしょうに」
「そうですが……」
「とにかく、今やらなくてはならない事は目的が割れてしまった以上、行動を早くしなければならない事よ」
「まさかこの機に総攻撃を?」
僅かに顔を上げたアスラ。兜の奥に見えた瞳には不安の色が色濃く現れていた。
それも当然なのだろう。今まではアスラの盟約を守るために、長い間総攻撃は仕掛けなかった。だが、こうなってしまった以上、流暢に構えていられないのだ。
「場所は割れないだろうけど、徹底的にやらなくてはならないわ……段階も早める。良いわね、アスラ?」
「……」
考えなくても答えなど決まっている。
もうそれしか選択肢は残っていないのだから。
「分かりました。前線の指揮、計画の実行は任せていただきたいと思います」
「ええ。それと、一部の指揮権は譲ってもらうわ……別行動でやりたい事があるの」
「それも分かっています。全力で補佐していくつもりです」
片膝を付いたまま頭を垂れる。そしてゆっくりと立ち上がり、言葉を続けた。
「私たちの夢を叶えるために、剣を振るいます」
「……違うわ。それはあなたの夢。あなたが今思い描いたのは、ね……」
「では、貴女は……何を−−」
「この話は終わりにしましょう?具合が優れないから……早速行動に移りましょう」
闇を巻き上げて姿を眩ます彼女は、絶対に何かを隠している態度だった。
だが、そればかりを気にしていては感情に呑まれてしまう。忘れなければ。
「今の話を理解出来たかは分かりませんが、雰囲気は察したはずです−−」
腰に携えたサーベルを引き抜く。煌めく刀身は高く掲げられる。
「−−あなた方の本能に従って戦ってください」
歓喜とも怒号とも叫びとも呻きとも取れるような声を響かせて異形の化け物たちは吼えた。夢を叶える、それだけのために。
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