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〜龍と刀〜
肝試しU
「お前ら、いつまでも言い合ってないでさっさと行けよ」

井上の背中を後ろから軽く蹴る。旅館から移動する際もずっといがみ合いを続けていたため、なかなか始める事が出来なかったのだ。

「うぅ……こうなったら最速タイムでゴールしてやる!中島、当然お前よりもなぁ!」

「別に良いよ?仕掛けなんか無視して井上より先に終わらせるから」

肝試しなんて知った事かと言わんばかりの全力疾走で、細く薄暗い山道の奥に消えていく二人を見送る残された面々。

「こうなるのは目に見えてた気もするけど……」

「そうだな。井上はともかく、まさか中島まで暴走すると−−」

『うわっ何だコレ、うわぁあ!こっち来んなよっ!』

『こんな仕掛けした覚えは……誰、が!?』

遠くから聞こえてきた二つの悲鳴。声に感じられた恐怖からして演技ではないみたいだ。本当に何か出たのだろうか。
ピピッと電子音が告げたのは次の組が出発を開始する合図。

「……あ、十分経ったみたいね」

「行くの?悲鳴聞こえたよ?」

半泣き状態の月華。さっきの悲鳴がかなり堪えたらしく、一歩も動こうとしない。

「その確認のためにも私たちが行かないとね。これも二人のシナリオ通りの展開なのかもしれないわ」

それは確実にあり得ないのだが、ひとまず同意をしておく陽。

「(マジで何か居るかもしんねえから戦力は裂きたくないが……出たら戻ってくれないか?)」

「(守りながらだとちょっとキツいわね。でも頑張ってみる)」

小声で会話する陽と紗姫。月華と春空には聞かれていないはずだ。

「それじゃ行きましょうか」

「手離しちゃダメだよ?絶対だよ?」

「気をつけて……」

手を繋いで歩いていく後ろ姿を見ながら、心の中で、何も起こらなければと切に願った。

「大丈夫か春空?具合が悪いなら今からでも旅館まで送るが……」

隣に立っている春空の体は小刻みに震えていて、いかにも寒そうである。しかし真夏の夜だ、寒い訳が無い。

「いえ、大丈夫です……あの、一つ聞いても良いですか?」

「ん、何だ?」

「……耳を貸してください」

春空の身長に合わせるように腰を曲げる。ふわり、と春空の長い白髪からシャンプーの香りが鼻をくすぐった。だがその柔らかな感じは一瞬にして変化する。一言によって。

「誰かに、見られてるような感じがしませんか……?気のせいでしょうか?」

「……気のせい、だと良いがな」

周囲を見渡すが、人が居る気配は無い。だが、動物を含めて、それ以外の気配は複数感じる。

「先に行ったやつらが心配だな。見に行くか……思い過ごしって事もある。だけど肝試しはちゃんとやってこうか」

「そうですね。あの、手を繋いでもらっても良いですか……?」

俯きがちにお願いする春空。怖い物は怖いのだろう、と陽もスッと手を差し出した。

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あきゅろす。
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