〜龍と刀〜
肝試しT
「−−という訳で、肝試しをしようと思います!拍手ー!」
井上が声高々と宣言する。陽が興味を示し、協力するというのもあるが、個人的にここが頑張りどころと見たからだ。
「肝、試し……」
「何がそういう訳か知らないけど……ま、良いんじゃないかしら?」
「……私も別に構いませんが」
三者三様の反応を見せる女性陣。若干一名乗り気では無いみたいだが、陽としてはやってもらわねば困る。どうにか焚き付けなければ。
「大丈夫だろ。何か出る訳じゃねえし。それに、仕掛けまで手伝ってもらったのに使わないのも悪いしな。なあ中島」
「龍神の言う通りだよ月華ちゃん?僕らが遊んでる間ずっとやってもらってたんだから」
嘘である。実際に仕掛けをしたのは井上と中島で、旅館の人は何一切触れていない。井上が何か言い出さないか心配だったが、簡易くじを造るのに集中していて聞いていないみたいだ。あの集中力を別の事に生かせれば、少しは立ち位置が変わっていたかもしれない。
「そ、そこまで言うなら……」
月華の事だから仕掛けをした人たちの苦労を考えたのだろう。
「決まりだな」
「そうみたいだね。じゃ、ルールを説明するよ」
そう言って中島は一枚の紙を取り出した。そこには所々手書きの文字が加えられた地図。
「地図?」
「……これは、ここのですか?」
「さすが春空さん察しが良いね。そう、この島の地図さ。わざわざ印刷してきたんだよ」
赤丸が付いている場所は多分現在地だ。緑色の線で囲まれているのが肝試しのルートらしい。
「ルールは簡単、山奥にある小さなお堂……って言うのかな?そこにロウソクを点けに行って、帰って来るだけ」
「地図を見る限りだが、形は悪いが円になってる。だから迷う事は無いはずだ」
陽が地図をクルクルとなぞる。話が進むに連れて月華の顔が青ざめていく。しかし、月華も今更やめるとは言い出せない。
「予想終了時間は早くても四十分くらいかな?順番と組み合わせは公平にくじ。前の組が行ってから十分したら次の組が出発って感じだね」
「あとは井上がくじ作り終えたら開始だな」
井上の方を見ると未だに作業中である。たかが数字を割り箸に書くだけなのに時間が掛かり過ぎだ。
「お前、必死に数字の組み合わせを覚えようと……」
「え!?まさかそんな事する訳無いじゃないかぁ!」
バッ、と並べられた割り箸を回収する井上。井上の事だ、今ので忘れたに違いない。
「じゃあ井上君は最後に引けば良いわね。大丈夫よ、余り物にも福があるからね」
紗姫の一言で井上が最後に引く事が決定した。
そして、運命のくじ引き。
「最初は僕が責任を持って引こう。あ、全員引くまで見ちゃダメだよ」
中島が引いたのを皮切りにドンドンと割り箸が抜かれ、すぐに井上まで引き終わった。
「それじゃあ一斉に開示しよう!」
結果。
一番目、井上・中島組から始まり月華・紗姫組、陽・春空組という振り分けになった。
「これおかしくね!?何でこうなるんだよ!」
「あーあ……井上が数字覚えようとしなければ変わってたかもしれないのに」
「俺のせいなのかあぁ!?」
言い争いの始まる組と、
「うぅ……紗姫ちゃんお化けとか平気な人?」
「人並みかしら。でも私に付いてくれば平気だから、ね?」
「うん、頑張る……」
怖がる妹を姉があやしているような感じの組、
「春空は平気なのか?霊的なやつとか」
「私は……多分大丈夫かと」
「そっか。何かあったら俺がなんとかするから心配すんなよ」
一人、別の目的を頭に置いて行動する組に別れ、肝試しが始まろうとしていた。
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