〜龍と刀〜
肝試しV
二人の歩く道は、舗装などという言葉からは程遠く、若干踏み固められているだけ。周りには名も知らぬ草木が密集し、不気味な闇で包み込んでいる。
「まったく……道が悪すぎる上に仕掛けとやらが邪魔で無駄に体力使ってるような……」
プツッ、と足元で何かが切れる音がした。木の根っこでも踏んだか、と思っていると、
「きゃぅ……!」
横合いから物体が飛来し、春空の顔を掠めたみたいだ。とっさに避けてしまったのがいけなかったらしい。
「何かこう……ぬるぬるした物が鼻先に……」
「あぁ、これが原因だな。……って、こんにゃく?」
細い糸を辿っていくと、木の上にぶら下げられたこんにゃくが風で揺れている。
「大分仕込まれてるな……」
「そうですね……でも、これがそのままということは」
「ここに辿り着く前に何かあったか、誰かが直したか、だ」
握った春空の小さな手がビクッと震えた。こういう異常な事に慣れている陽とは違い、春空は魔術やそういった物には無関係な一般人なのだ。出来れば巻き込みたくは無いのだ。
「ここで止まってても仕方ねえし、進むぞ?」
無言で頷く春空。
更に奥へと進んで行くと、ほんの少し先に中島が話していたお堂が見えて来た。
「火が……点いていませんね」
「やっぱり、何かあったのか……?だとしたら、何で俺たちだけ無事なんだ?」
途中、何回も引っ掛かった仕掛けの数々も手付かずのまま。つまり、先に行った四人は何かとの接触が合ったと見て間違いはないだろう。だったら一刻も早く春空を旅館まで送り、自分一人で捜索を開始するべきだ。
そんな事を模索していると、春空が控えめに服の裾を引っ張って来た。
「あの、お堂の後ろに足跡が……」
「ん?……確かにあるな。しかも、人間のじゃねえやつが」
しゃがみ込み、手と大きさを比べてみる。明らかに大きいし、形からして人間ではない。獣の足跡に近いだろうそれは、お堂の裏から一直線に森の奥深くへと続いている。
「さて、と。春空には一旦戻ってもらうぞ。心配掛ける訳にはいかないからな」
そう言って立ち上がり、再び手を差し出す。
「……ます」
春空が小声で呟いた。最初の方は全く聞き取れなかったから、陽は聞き返した。
「今、何て?」
「私もついて行きます。皆さんの事が心配ですし、それに−−」
前髪で隠れていて正確な表情を見る事は出来なかったが、春空の白い肌には朱が交じっているのが確認出来た。
「−−龍神さんだけに危ない思いをさするのは、気が退けますから」
春空の言葉は妙に説得力があった。それは多分、戦いに出る前にこんな優しい言葉を掛けられた事が少なかったからだろう。
「あー、分かったよ。そこまで言われると断るのもアレだしな……」
本人としては気が乗らないのだが、ここで無理矢理追い返すなんて無粋な真似は出来ない。
「なるべく、危険だったら逃げろよ?俺も善処はするけど」
「はいっ」
答えた春空は、何故か楽しそうだった。
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