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〜龍と刀〜
帰り道
着替え終わり道場を出ると、空はすっかりオレンジ色に染まっていた。

「なんか体が軽く感じるな……」

久々に防具を着けて動き回ったためか、自分の体が軽くなったように感じる。

「それにしても……紗姫か。あいつが剣術使ったらかなり強い剣士になるだろうな……」

ポツリと呟いてみた。陽は一応、代理ではあるが頭首だ。剣を教える権利も持っている。どこの流派にも属していない紗姫なら弟子にしても……という考えが浮かんできた。

「でもなあ、剣凰は公上休止状態だし……俺なんかが教えても……」

呟きながら歩いていると、いつの間にか校門の前に出ていた。その隣のベンチに誰かが座っているみたいだが、逆光で良く分からない。分かったとしても知らない人だろうと思い、素通りする。

「あ、そうだ。月華居ないんだったか……コンビニ弁当でも買わないと」

「ちょ、ちょっと!せっかく待ってあげてたのに無視なの?」

無視した覚えは無いんだが……、と振り返ると、そこには紗姫が立っていた。
紗姫は腰まである金髪を黒いリボンで束ねて、ポニーテールにしている。道場で見た時とは少しだけ印象が違うような気がした。

「別に待たなくても……って部活は良いのか?」

そう聞くと紗姫は手をヒラヒラと振り。

「いいのいいの!今日は龍神君と手合わせしたかっただけだし。それに片付けの当番も当たってるじゃない?」

「そんな風に言われてもな……サボリは良くないぞー」

「万年サボリ魔の龍神君だけには言われたく無いわよ……ねえ、これから時間ある?」

陽は断っても連行されるというのを直感的に感じたため、とりあえず、何もないと答えた。

「じゃあ、お話しがてら遊びに行きましょ!」

「……お前絶対遊ぶのが目的だよな?そんな目してるぞ」

「あはっ!バレちゃった?」

陽は一瞬でも紗姫を弟子にしようとした事を悔やんだ。弟子にしたら滅茶苦茶に振り回されて疲れ果てそうな、そんな感じがした。


*****


−−数時間後。
案の定、振り回されるわ、奢らされるわで散々な思いをした陽。
日は完全に落ち、空は月が支配している。

「ふう。たくさん遊べたわ!」

「疲れた……おい紗姫。金はしっかり金額を揃えてなるべく一括で払ってくれよ?貸した方は覚えたりするのも面倒なんだからな」

「えー……普通こういうのって男の子が全部払ってくれるんじゃないの?」

「そんなバカな話は聞いた事がないので却下だ」

財布を確認しながら溜め息を吐く。そして、今日の出費は、と数え始めた。陽は金には厳しいのだ。

「最後にもう一カ所だけ……いいかな?オススメの場所があるのよ」

まだ金を搾り取られるのかとも思ったが、紗姫の目が遊びの物ではなく、今の空ように澄んだ目をしていた。

「……ああ、分かったよ」


*****


少し歩いた場所にそれはあった。周りが木々で囲まれたそこは、何とも美しい景色。木々の間から差す月光が二人を照らす。

「ね?キレイでしょ?」

「こんな場所もあるんだな……なあ、話があるんじゃないのか?」

紗姫はおふざけの雰囲気を捨てて陽に向き直り、単刀直入にこう告げた。

「龍神君は……龍族なんだよね?その事を、自分の体を恨んだ事はある?」

「……」

いきなりだ。だが、なぜか驚く事は無く冷静に、目を閉じて考える。自分の出せる答えなんて分かりきっているのに。

「俺は無いな。確かに普通の人間とは違うし、たまに不便な事もあったりする。だけどさ、俺は自分が生きている道に後悔はしてないぜ?何て言ったって好きな剣術を好きなだけ全力で出来るしな」

何故紗姫がこんな質問をしたのか、大体見当がついた。
そう。紗姫もきっと−−。

「私は……獣族(ジュウゾク)なの」

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