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〜龍と刀〜
寝床探し
そもそも高校生ではネットカフェなどでの寝泊りは出来ない。なので選択肢から早速除外する。そこですぐさま思い付いたのは交友関係を使う事。

「月華に頼みたいけど……無理だよな……」

月華に頼む分には問題ないのだが、その後の十六夜からの猛烈な攻撃があるとしたら寝首を掻かれかねない。そもそも部屋に泊めるなど許さない可能性が大だ。なのでこれは除外。ここは当分屋敷には近付くなという意味合いでのメールを送っておくとしよう。となると出掛けているであろう紗姫にも送っておかなければ。

「……先輩はどうだろう?」

『御門流』の屋敷には入った事が無いが、確か幸輔の両親は魔術に関わらない生き方をしていると聞いた記憶がある。家族間での軋轢があるのか。しかし今はそんな事を気にしていられない。どうにか屋根があるところで寝たい陽は既に電話を掛けていた。

「出ないか……忙しいのかな?」

呼び出し音が留守電に変わったところで諦め、次を思い浮かべる。しかし、ここである事に気付いてしまう。

「俺って……こんな時に連絡出来る人が少ないのか……」

交友関係が狭い訳ではない、と思っている。だがいざとなった時、気軽に連絡して良い人間はどれだけ居るのだろうかと考えてしまっただけだ。
連絡先をスクロール。確かに同じクラスの友人の連絡先は知っているが、あまり遊びに呼んだりなどはしていなかった。だから余計に連絡し辛い。と、なると驚くほどに絞られてくる。春空、中島、そして井上。この程度しか居ないのかと泣きたくなって来るが仕方ない。

「春空か……頼めば大丈夫って言ってくれそうだけどな……」

夏休み、別荘があるという事実を知ってしまったからにはきっと家も大きいはずだ。部屋ならあるだろう。ここで迷っていても仕方が無い。動かなければ。

「……」

呼び出し音数回の後、すぐに電話に出て貰う事が出来た。

「あーもしもし?龍神だけど……」

[春空です……どうしました?]

「いきなりで悪いんだけど、今日泊めてくれないか?」

伝わっているのかいないのか、無言である。しかし呼吸する音だけは聞こえているので繋がっていない訳ではない。悩んでいるのだろうか。それも当然だろう。いきなり同い年の異性から泊めてくれなどと言われても困ってしまう。立場が男女逆だと言うのなら、男子は快諾するはずだ。そこにどんな理由が存在しようと。

「無理なら無理で他当たるんだが……」

[龍神さんを、うちに、って事ですよね……?]

「ああ迷惑なら大丈夫だ。悪いないきなり」

[ちょっと待ってくださいね。親に確認してみますので……切っても大丈夫ですよ。こちらから掛け直します]

これはどうやら好感触のようだ。ここで決まってくれるのなら助かる、と心の底から願いながら電話を切る。ついでに中島にメールを送っておく事で保険を作ったが、どっちもダメだと言うのなら――と思考を巡らせている内に着信が入る。相手は春空だ。良い返事が聞けるように、と祈りながら通話ボタンを押す。

「はいもしもし」

[えっと、その……申し訳ないんですが……]

どうやら断られてしまったようだ。肩を落とすが、こればかりは、と割り切って考える。そもそも女子に頼んだのは失敗だったのだ。

「いや良いよ。急だったし……ごめんな?変な頼み事して」

[いえ、私は良かったんですがどうしても家族が……]

「了解。ありがとうな」

[機会があったらまた、どうぞ……]

これは別の日だったら良い、という事なのだろうか。だとしたらそれは力になって貰えるとありがたい。非常に助かる。そしてお礼と謝罪を交えつつ電話を切り、嘆息。しかしここに来て怒りが再燃。何故自分がこのような事をしなけれなならないのかと。そもそも奴は何しに現れたのか、と。この屋敷の奥。一体何をしているのか。怒りを燃やしながら着信を見ると、そこには中島の名前が表示されている。先程の返信だ。

「無理、か……メガネだもんな……」

その二文字とともに顔文字と絵文字が並べられている。こうなったらプライドを捨ててでも井上に連絡をしよう。そう決意する。いい加減外に居るのも辛くなってきたのか歩きながら電話を掛ける。

「チッ……早く出ろよ……」

井上の時だけ態度が豹変する陽であった。なかなか出ない事に苛立ちながらもしっかり待つ。通り過ぎる人はこれから暖かい場所に帰るのだろう。それを見ると更に碇が増してくる気がしてならない。

[もっしー。どうした?]

「今からお前の家に行く」

[え?何で?]

「俺を泊めろ」

問答無用の一撃。何を言われようが退くつもりはない。相手に隙を与えないのが『剣凰流』のスタイルだからだ。

「じゃないとお前を殴るかもしれない」

[いやいや!意味分からん!……え、マジで来るの?]

「ああ。今向かってる。駅の近くだったよな?」

[そうだけど……ちょっと片付け――いったいなあ!おーい、母さんー!あ、ごめんとりあえず切るから!気をつけてゆっくり来いよ!]

どうやら陽が泊まる事には特に問題が無かったようだ。がちゃがちゃ騒がしかったのは片付けを始めたかららしい。
しかしこれで今晩の寝床を確保する事が出来た。ゆっくり、と言われたが陽の足取りは次第に早くなる。次に考えなければならない問題は――

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あきゅろす。
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