〜龍と刀〜
夢の中]
「選択の余地は、無いんだな」
店に入ってから結構な時間が経過したらしく、辺りはすっかり闇に包まれていた。時折見える家々の明かりが道を照らす。
「しかし、考え方を変えてみると……これは好機なのかもしれない、んですよね?」
「そうなんだよ。俺たちはここの領主から情報を聞き出して懲らしめるというのが当初の目的だったからな」
「私は聞いてませんでしたが……」
「アスラなら察してくれてると思ったんだって。言わなかったのは悪かったと思ってる」
このぐらいの暗さなら、アスラを肩に乗せていても不審がられる事は無いだろう。何せ、暗闇に紛れて見えていないのだから。
マーワルドが独り言を言っているようにも見えるのだが。
「山が削られて自然が破壊されたり汚されてるっていうことはさ、きっとここの町が関係しているんだ。なら、同じ人間として縮小なりの方法を取ってもらわないと」
「それに恨みを持つ獣たちを鎮めるのも私たちの仕事ですね」
「あぁ、そうさ。俺とアスラなら出来る……さっさと宿に戻らないと。ジーニーが酒に困って暴れちまうかもしれないからなっ」
手に持つ皮袋を揺らし、笑顔を作るマーワルド。やる事は決まった。後戻りは出来ないし、するつもりもない。
*****
「ぅぅうぉ遅い!一体いつまで待たせるつもりだったんだよ我が親友はぁ!?酒も飲まずに待っていたというのに!」
「あはははは。相変わらずジーニーは元気いっぱいだなあ」
「そんな爽やかな顔すんな!商人ってのはな?時間イコール金なんだよ!待ってる間にどれだけの金が稼げたと思う?!」
マーワルドの両肩を掴み、渾身の力で揺する。金より旅のジーニーが、何を言っているんだろう?と首を傾げているのだが、その答えは見付からない。確かに遅れた自分に責任が無い訳ではないのだが。
「あの、ジーニー……?そろそろ、本当に止めてくれないかな?吐く……」
「お?おぉ悪い悪い!で、酒は持ってきたんだろうな?」
ようやく解放され、背中から固めのベッドに倒れ込む。酔い止めにしてはかなり痛かった。
「……アスラ、頼んだ……」
窓枠に留まっていたアスラを呼び、皮袋を渡す。アスラはそれをジーニーの眼前まで持っていく。
「ん、こいつだな〜?どれどれ……親友マーワルドの選んでくれた酒はっと」
紐を乱暴に解き、中身を取り出したジーニーは固まっていた。どことなく、目を輝かせているように見える。
そして−−
「うおおい!!マーワルドぉ!これ、これはどこで入手したんだ!?」
−−ぐったりと倒れたマーワルドの両肩を再び掴む。無理矢理立ち上がらせ、やはり揺する。
「ひ、人にもらっ……て」
「そいつはすげえ!こんな、王都に住む貴族ですら稀にしか口に出来ないという酒をー!」
「いや、だから、ジーニー……止めて……」
「うぉぉぉ!まさか生きてる間に拝めるとは、神のお導きに違いない!さあ、飲むぞマーワルド!こんな幸福、普通に生きてたら死ぬまでには味わえないんだからな!」
ぐったりしているマーワルドを余所に、一人ではしゃぐジーニーを止められる者はその場には居なかった。
「親友が居るって最高だな!」
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