〜龍と刀〜 騎士の心Y 轟々と音を立てて落ちてくる漆黒の炎を見上げ、陽は不適に笑う。 制服のポケットに手を突っ込み、勢い良く何かをバラまいた。それらに触れた漆黒の炎は、バチバチと闇を散らしながらその場に縫い止められる。 「ほう……まだ残っていたのか」 「こんな事もあろうかと小型タイプも携行してたのさ!驚いたろ?」 「言われるとあまり驚きは無いな。むしろ何故持っていたのだ、という疑問がだな−−」 そんな会話を続けている間にも、陽は足を止めずにアスラへと突進。さすがのアスラも虚を突かれたらしく、固まったままだ。これはもう、速さの問題となった。 どちらが速く動けるかが勝負。 「くっ、まだそんな余力が……!」 ここに来て始めてだろう、アスラの焦りに満ちた声と表情。 「まさかまだ式紙が余ってた、なんて普通は思わないだろ?」 反対に陽は勝ち誇ったかのような笑みでアスラに斬り掛かる。白銀の刃が銀色の軌跡を作ってアスラの右肩へと振り下ろされた。 「舐めないでいただきたい……!」 右手の回避は間に合わないと見たアスラは、持っていたサーベルを持ち換え、左手で刺突を繰り出す。 交錯する二つの刃。一つは相手の肩の鎧を壊して右腕に多大な損傷を与え、もう一つは鋭い切っ先によって相手の脇腹を貫いた。 舞う鮮血。しかし両者とも武器を握る手を止めはしない。動きが止まった方が負けるからだ。 「ッ……」 貫かれた脇腹が痛みに震えながらも、陽は白銀を振るう。動けば大量に出血してしまうのも理解して。 それはアスラも同じだ。剥き出しとなった白い腕は真っ赤に染まり、だらりと下ろされている。出血を抑えるためなのか、それとも腕の神経が切れてしまったのか。 それは分からないが、どちらにせよ右腕だけは封じる事が出来たのだ。刺し違えてでもダメージは与えた。あとは、押し切る。 「陽、傷が深いぞ。あまり過度に動けば倒れるな」 「分かってる。だけど、右が使えないならチャンスだろ?あっちは真正の種族だ。回復速度も異常なはずだぜ」 「それはあるか……」 一度距離を取り、体を休める陽。 鋭い痛みに耐えながら、呼吸を整える。 乱れた呼吸で戦うとするならば相手に隙を突かれてしまうのだ。 「考える暇も与えないってか!」 白銀の刀身を杖代わりにしていた陽に襲い掛かるのは、漆黒の翼を広げて滑空するアスラ。サーベルは腰の鞘に仕舞われており、これがただの突進である事が容易に想像出来る。 「そんなの−−」 迎撃するために白銀を腰溜めに。居合いの形だ。 「−−二度も喰らう訳が無いだろぉ!」 迫り来るアスラに、タイミングを計った抜刀を。しかし、捻った拍子に穴の開いた脇腹からドロリとした嫌な感触。生温い液体が体を這う。そのせいで狙いを逸らしてしまった。 抜刀はアスラの髪を掠った程度で、陽は横合いから勢いを付けた拳によって殴られる。 [*前へ][次へ#] |