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〜龍と刀〜
騎士の心Z
強打した頬。口の中が切れ、血の味が広がる。
出血多量で意識が飛びそうになるが、必死に堪えた。ここでやられてしまっては話にならない。
だから、立ち上がるのだ。

「それだけの傷を負い、力を見せ付けられても、あなたの心は折れないみたいですね」

ほとんどの傷を癒やし終えたアスラが悠然と空中漂う。残るのは先程浴びせた肩の傷、そして血痕。

「もう……終わらせましょうか?」

哀れみを含んだ視線で陽を見下す。
左手に収まっているサーベルに漆黒の闇が灯る。
荒くなる息を鎮めるために、ゆっくりと白銀を構えた。その眼光には疲弊の色は無く、ただ倒すべき相手を見据えている。

「つまりこの一撃に懸けるって訳か……白銀、保ちそうか?」

「正直に言うが、保って参式を一度だけ、といったところだ。それ以降はお前の気力次第だな」

ズバリと言われた事を頭の中で吟味。
全力で迎え撃つとしても、守りに徹しカウンターを決めるにしても残り一撃が限界だろう。
アスラは別かもしれないが、陽はそれで終わり。どちらを選択しても、一撃。

「絶対に当てる事が最低限の条件か……」

どんなに強い攻撃を放っても、相手に当たらなければ意味がない。
なら、集中力を高めるまでだ。
陽は白銀の切っ先をアスラに向け、目を閉じた。この態勢が陽にとって集中力を高めやすい。

「手は決まったのですね。では、私も万全を期すとしましょうか」

いつぞやに見たように、サーベルで円を描き魔法陣を展開。
脈を打ち、魔力が充満していくのを瞳を閉じたままで感じ取る。

「“我が手に満つるはまごうことなき闇。騎士の心に刻まれし、手折れる事無き盟約を願い、祈る”」

空気の流れが変わり、止まった。
アスラの魔力が圧倒しているのだろうか。
それは陽の体にもひしひしと伝わってきた。次に瞳を開いた時には空の色は黒く、灰色の雲に包まれているではないか。

「ふっ……行くぜ……」

鋭く息を吐き出し、白銀を横に凪ぐ。
暗くなった空間に走る銀色の軌跡は、とても美しく映えていた。
そして、陽の傷だらけの唇から紡がれるは『剣凰流』の剣技。陽の一番得意な。

「水刃……青龍!」

溜めた水気を白銀の刃から解き放ち、まるで天を裂く龍のように顕現させる。

「これが俺の出来る最大だ!さあ、勝負しようぜ!」

水気で作られた龍が陽の叫びに合わせて吼えた。声こそ無いが、その威圧感は本物だ。

「“其は鋼、其は剣、其は闇……主の敵に滅びを与える暗黒の奔流”!」

サーベルを鍵のように回し、魔術の完成とする。地を揺るがす轟音と共に放たれたるのは、詠唱通り、闇の奔流。それも先程とは比べ物にならない極太な。

「私の全力です……どうか呑まれないようにしてください」

「言ってくれるじゃねえか……!後悔するんじゃねえぞ!」

技と技、全力と全力の強大な激突が始まった。

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あきゅろす。
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