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〜龍と刀〜
騎士の心W
当然ながら、今の攻撃には何ら威力を期待していない。ほんの少しの時間さえ稼ぐ事が出来るなら、それだけで定石。

「兜無いからそこそこ喰らうだろ?」

放った水気の刃はアスラの鎧に打ち当たり、微塵に消える。だが、それこそが陽の狙い。
鎧によって弾けた水気は滴に変わる。それがアスラの顔などにぶつかるというのも計算の内だ。そしてその中の一滴がアスラの目に直撃する事も。

「なかなか、せこい事をやってくれますね……」

自身の脳の命令には逆らえず、滴が目に入った途端、瞳を閉じてしまったアスラ。
それを機に、陽は一太刀浴びせてから後ずさる。どんなに距離を取っても無意味なのは分かっているが、無駄に攻め込んでやられるよりは被害を最小限に抑える事が出来るはずだ。

「だけど攻めなきゃやられるのも事実なんだよな……」

「あくまでも『剣凰流』の型は近接戦闘を主としている。全てと言っても過言では無いほどに」

「それも分かってるよ。あいつに近付いて戦わなきゃならないってのも。そうしなきゃ勝てないってのも」

「まったく……だから魔術を覚えろと言っているだろうが」

作戦会議のはずだったが、いつの間にか白銀による説教に変わっていた。
確かに白銀の言う事も一理あるが、陽は今更、一から魔術を勉強する気はない。
している余裕も無かったりする。

「月華と共にやれば良いではないか。師もあれだけ凄いのは居ないぞ?」

「馬鹿言うなよ……っとお喋りしてる暇は無いみたいだ」

どうやらアスラの傾向としては、陽と白銀がどういう風に戦うのか、という相談中には斬り掛かって来ないみたいだ。
それが彼の騎士道という物なのだろうか。

「先程も言いましたが……あなた方は会話が好きなのですか?何故戦闘の最中に和やかな会話を出来るのです」

「そうだな……、一種の余裕−−」

ふざけた調子で答えてやると、アスラが目にも留まらぬ移動でサーベルを振り上げていた。
眼前。白銀で防ぐのは間に合わない。ならば、文字通り身を削るのみ。

「私に対して、いや、戦闘時にする態度ではありませんよ。場合によっては挑発に取れなくは無いですが……!」

「陽!」

白銀の叫びも虚しく、陽は庇った両腕から鮮血を垂らした。幸いにも骨までは達していないらしく、肉をやられただけだ。狙ってやったのだとしたら、アスラの腕前を改めて認識しなければならなくなってしまう。

「まだ幕を引く訳には行かないため、骨は勘弁しましたが……次はありません」

「チッ……何様だよ、あんた」

「私は私です。何よりも盟約を重んじる騎士」

乱暴な舌打ちにも口調は乱さず、冷静に。まるでそれが当たり前のように。

「更に言えば、私の騎士道精神は正々堂々」

「奇遇だな、俺もだぜ。なら、もっと力技で勝負しようじゃねえか!」

垂れる血と痛みを無視して走り出す。

「それは盟約とは別なので却下です」

吹いた風に髪をなびかせながら、サーベルを構える。
そして、何度目かも分からない激突。

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あきゅろす。
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