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〜龍と刀〜
騎士の心U
アスラの心は揺らぐ事は無いだろう。
例えどのような言葉で邪魔をしようとしても、彼の心に刻まれた盟約の前では塵も同然。
それがアスラの原動力だ。

「大口を叩いた割にはあまり変わっていませんね。それで勝てると思っているのだから不思議でならない」

突き出されたサーベルの切っ先が頬を掠める。

「お前だって盟約盟約って同じ事を何回繰り返すつもりだよ!」

切れた頬を気にせずに、横から軌道を変えて襲い来る刃をギリギリで避けた。
前髪をいくらか切られたが、気になる程じゃない。

「何度も言っているでしょう?彼との盟約を果たすまで、私は戦うと。あなたにも約束があるなら一緒のはずです」

「確かに約束ならある。だけどそういうのは口に出すべきじゃないと思うぜ?」

「声に出して確認する……それも必要だとは思いますが」

「それを心の中に仕舞っとくのが現代人の考えだっ」

交錯するのは白銀とサーベルの刃だけでなく、二人の信念もだ。
激しくぶつかり、火花と散る。
そして鍔迫り合いになると、短いアスラのサーベルは不利となるのだ。単純な力押しだけなら、陽にも勝機があるらしい。

「どうしたよ……腕力勝負だと勝てないってか?」

龍化の助けもあってか、今は陽の優勢だ。
だが、そのような小さな差で戦局が大きく傾く程甘い戦闘ではない。
アスラはサーベルを握る力をわざと緩め、刃を自身の鎧に打ち当てた。
急に力を抜かれた事によって陽の体は自然と浮き気味に。支えだった右足には予想外の力が入り、下がらないように抑えていた左足は地面から離れてしまう。

「……闇に、沈め」

紡がれたのは呪詛の言葉。振り下ろされる拳から腕に掛けて纏ってあるのは純粋な闇の塊だった。それが火花の如く撒かれては中空を漂う。
陽が構えを取る前にはもう遅い。腹部への強烈な一撃が決まっていた。

「がはっ……」

まるで体内の全ての空気を無理矢理押し出されたかのような感覚。しかし、口から漏れるのは赤黒く、鉄の味がする液体だ。
殴られた場所の服は溶け、見えるのは痛々しいアザ。アザで済んだのだからマシな方だ。これで穴が開いていたとなったら、さすがの陽でも負けを認めざるを得ない。それでも立とうという意志は健在だとは思うが。

「今のはどうやって防いだのですか?直撃したならば貫通するはず」

「それは我がやったのだ。面倒な説明は省かせてもらうが、簡単に言うと陽の体に我の硬化の魔術の一部を流した。これで分かるか?」

さも面倒臭そうに言う白銀。
アスラにはそれだけでも通じたようだ。

「そんな事をすれば、あなたの硬化に影響があるのでは?」

「敵に心配される筋合いは無い。陽の体は魔術を流し易いから戻す事も可能だぞ」

「それ、喜べば良いのか?」

引かない痛みを堪えて立ち上がり、呼吸を整える。

「だいぶ手の内を明かしたけど……もうあとは力で立ち向かうしかないよな」

「うむ。龍化を完成させているならこのような事態にはならないだろうに」

「俺のせいじゃ無いだろ?」

無駄話を出来る心の余裕はまだあるらしい。ならばまだ、打つ手はあるはずだ。

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