〜龍と刀〜
帰還
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月詠が巨大な防御結界『満月』が作るドームの中には、傷付いた者たちが気力の回復のために横たわったり、魔術で傷を治癒したりしていた。
「ねぇ、月詠さん?あなた休めてないんじゃないかしら」
月詠は、身に着けた輝く金色の腕輪を弄びながらも、常に結界を維持し続けているのだ。休め、と言っていた本人が一番休めていないだろう。
「気にする必要はない。ワタシは神族だぞ?この程度、苦にもならん」
「あなたはそうでしょうけど……月華ちゃんの体に負担掛かるんじゃない?だったら少し休みなさい」
「む……そう言えばそうなのだが、これを維持するためにはワタシが居なければ……」
紗姫の気遣いは嬉しいのだが、この『満月』は月詠が独自で編み出した魔術で、術式も独特。それに使用される魔力も神族の物で、引き継げる人間など居る方が珍しい。
「ん〜それなら居るじゃないか〜」
何やら携帯電話で連絡を取り合っていたらしい幸輔が言う。
「どこにだ?」
幸輔はいつも通りの笑顔で指を動かした。その指の先に居るのは−−
「この人たちだって、見習いだろうけど一端の魔術師だからね〜。全員の力を合わせれば魔力に関しては充分だと思うよ〜。どうかな〜?」
幸輔が提案したのは、ここに居る魔術師に共通の術式を流し、それに魔力を充て続けるという単純作業。
「確かに悪くないな……」
「それにね〜?そろそろこの状況を打破出来る人間がやって来る頃合い−−」
楽しそうに語る幸輔の言葉を遮るようにして地面が揺れる。
「な、なんだ!?」
「新しい敵でも来たんじゃないのか?」
「まだ傷が癒えてないのに……なんてタイミングの悪さだ……」
揺れの正体を分かっている一人だけが慌てず、あくまでも楽しそうに結界の外を眺めていた。
「何を隠してるんですか先輩……?」
「ふっふっふ〜。まぁ、見てれば分かるさ〜」
「この魔力……まさか少年よ、奴を呼んだのか?」
結界の外、減る事も無ければ増える事も無い魔物の軍勢。その中央、強烈な光とともに、そこ一帯が消し飛んだ。
「退けぇ雑魚ども!うっとうしいんだよ!」
再び。
次に上がるのは壮大な火柱。火柱、というレベルとは大きくかけ離れた、まるで全てを焼き尽くそうかとしているような炎の杭だ。
「あの炎は……師匠かっ!」
「おーい、みんな!師匠だ、師匠が来てくれたぞ!」
沸き立つのは十六夜の弟子たち。呆然と破壊の光景を眺めるのは紗姫と月詠。
「月華ちゃんのお父さん、だよね?」
「そう。『金鳳流』現頭首の鳳 十六夜さ〜。娘さんがピンチだよ〜って言ったら文字通り飛んできたんだ〜」
自分の娘が危機だ、というだけで協会から抜け出して来たのだろう。確かに十六夜ならやりかねない、と言うよりもうやってしまったのだが。
「……粗方片付いたら『満月』は解いても良いな」
一人で暴れる十六夜の勇姿を、内で眠る月華の意志に焼き付けながらそう呟いた。
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